研究課題/領域番号 |
16K02548
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
菅谷 憲興 立教大学, 文学部, 教授 (50318680)
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研究分担者 |
辻川 慶子 白百合女子大学, 文学部, 准教授 (80538348)
山崎 敦 中京大学, 国際教養学部, 准教授 (70510791)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フランス文学史 / ロマン主義 / 第二帝政 / 哲学史 / 宗教文化 |
研究実績の概要 |
初年度に引き続き、研究代表者・分担者が各々担当する領域についての知識を深め、それを成果として発表することに努めた。具体的には、菅谷は十九世紀の文学者の「社交性」の一例として、フローベールと科学者との交流のあり方に着目し、その中でも特に医学者との関係を調査した結果の一端を、3月にルーアンで行った講演において披歴した。辻川は、1850年の新聞法改正を中心に文学と権威、および政治と芸術美学の関係について調査を進めた他、小ロマン派とネルヴァルにおけるリライトの問題に取り組み、研究成果を二つの研究発表にまとめた。山崎は、十九世紀の哲学界・宗教界を分断した「懐疑主義論争」を取り上げ、その歴史的展開を跡づけた上で、フローベールの小説美学に内在する懐疑主義的要素を分析し、論文にまとめた。また菅谷と山崎が参加した『フローベール事典』(フランス語)も、本研究に付随して生まれた大きな成果の一つである。最後に、研究会については、本研究の射程を広げる目的で、本科研のメンバー以外の十九世紀研究者を講師に呼び、おもに十九世紀の宗教文化について発表してもらった。研究会は立教大学・菅谷研究室において4度開催した。詳細は以下の通り。 1.7/1(土)15:00~18:00 発表者:木内堯(立教大学・学振特別研究員PD)、コメンテーター:坂本さやか(白百合女子大学、他・非常勤講師) テーマ「フローベール『感情教育』におけるミシュレ」 2.9/23(土)15:00~18:00 発表者:中島太郎(中京大学・准教授) テーマ「プロテスタンティズムと19世紀フランス文学」 3.12/17(日)14:00~17:00 発表者:坂本さやか テーマ「ミシュレ―と脱象徴化の問題」 4.2/16(金)15:00~18:00 発表者:片岡大右(一橋大学他・非常勤講師) テーマ「ポール・ベニシュー『預言者の時代』について」
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
定期的に研究会を開催し、第二帝政期の文学とロマン主義とのかかわりについて、共通の問題意識に基づき、活発な議論を交わすことができた。二年目は特に、研究会のテーマを十九世紀の宗教文化に絞ったことにより、ミシュレ、プロテスタンティズム、ユートピア思想など、これまで日本ではあまり論じられてこなかった問題について、集中的に新たな知見を得ることができた。 一方、論文や学会発表などの研究成果も十分であり、国内外で大きな成果を挙げることができたと自負している。とりわけ菅谷が責任編集者の一人および執筆者として、また山崎も執筆者の一人として参加した『フローベール事典』は、フランス語で1771頁の大著であり、今後の十九世紀フランス文学研究における重要な参照文献となるものと思われる。菅谷がルーアンで行った講演も、ルーアン大学フローベールセンターの学術雑誌への掲載がすでに決まっている。また辻川は『ネルヴァル―歴史と政治』と題されたフランス語共著書を刊行し、また2017年9月には国際シンポジウム「文学と権威」、および2018年3月にはシンポジウム「引用の文化史―フランス中世から20世紀文学における書き直し(リライト)の歴史」で発表した。これらの二つの研究発表はそれぞれ共著書としての刊行が予定されている。 最後に、当初は平成29年度予算に計上していた海外の研究者の招へいは、諸般の事情により見送らざるを得なかったことを断っておきたい。ただし、繰り越した予算を使って、ラマルティーヌなどロマン主義の詩を専門とする気鋭の若手研究者オレリー・フォリア=ルワズルール氏を平成30年10月末に招へいすることが決定しており、その機会に公開講演会などの学術的催しを複数開催する方向で現在調整中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度も各人それぞれ担当する領域について研究を進めながら、定期的に研究会を開いて、打ち合わせの機会を持ち、お互いの研究成果について積極的に意見交換していきたい。本研究の最終年度でもあり、これまでの研究成果のとりまとめを行うのはもちろんのこと、さらに可能ならば、本研究を発展させた新たな研究プロジェクトを立ち上げることに注力したいと考えている。また昨年度未消化の予算を使って、10月末にオレリー・フォリア=ルワズルール(Aurelie Foglia-Loiseleur)氏を招へいする予定であり、現在のところ、立教大学で第二帝政期におけるロマン主義の受容についての講演会を、それから東京大学本郷でラマルティーヌについての講演会を企画している。どちらのイベントも、十九世紀後半に偏りがちだった日本の仏文研究にとっては、新たな方向性を示す刺激的な催しになると思われ、その意義はまさにはかり知れない。 三年目の各人の研究の具体的な内容に関しては、まず菅谷は、フローベールの小説、特に遺作の『ブヴァールとペキュシェ』が十九世紀の様々な知(医学、地質学、歴史学、宗教学)と切り結んだ関係を具体的に調査する作業を通して、認識論的手段としての文学のあり方が、ロマン主義からフローベールの世代までどのように変化していったか、あるいは受け継がれたかを明らかにしたい。辻川は、第二帝政初期に発表されたネルヴァルの作品を取り上げ、そこに見られる個と共同体の問題を取り上げ、社会思想と芸術美学の接点に着目しながら考察したい。山崎は、「懐疑主義論争」と密接に連動している「汎神論論争」に焦点を当て、スピノザ的な汎神論が諸作家(フローベールやテーヌやルナン)の芸術美学の形成に及ぼした影響を明らかにする。もちろん学術誌などへの成果の発表も精力的に行っていくつもりである。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度の予算に計上していた海外研究者の招へいを、諸般の事情により見送らざるを得なかった。しかも、その分の予算を書籍や海外出張など他の費目に用いるのではなく、そっくりそのまま次年度の招へいに向けて繰り越すことにした。 (使用計画)平成30年10月末から11月初めにかけて、ラマルティーヌについての優れた研究で知られるフランス人研究者オレリー・フォリア=ルワズルール(Aurelie Foglia-Loiseleur)氏を招聘する。すでに先方との連絡もついており、滞在日程や講演会の日取りもほぼ固まっている。具体的には、10月29日(月)に東京大学本郷キャンパスで、それから10月31日(水)に立教大学池袋キャンパスで、公開講演会を開催する予定である。
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