研究課題/領域番号 |
16K02549
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
瀬戸 直彦 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (30206643)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | トルバドゥール / 抒情詩 / 写本 / ヴァリアント / ジラウト・デ・ボルネーユ / アササン(暗殺者) / 山の長老 / 中世ラテン語 |
研究実績の概要 |
本年度は研究第2年目にあたり,フランスのアルビにあるトゥールーズ大学シャンポリオン研究センターで開催された第12回国際オック語オック文学研究学会において研究発表をおこなった。発表題目は,Quelques remarques sur un texte de "Maestre dels trobadors" : Leu chansonet'e vil (Giraut de Borneil, PC 242, 45)。これは前年度に『早稲田大学大学院文学研究科紀要』に発表していたジラウト・デ・ボルネーユの黙説法についての論文を出発点にして,12世紀末に活躍したこのトルバドゥールの一作品を,私の研究対象であるC写本をもとに校訂し,とくにその第75行目のヴァリアントに注目し,また他の写本の提供するヴァリアントと校合したものである。その中には,本研究課題のテーマであるN写本のテクストと挿絵の関連も視野にいれた。2018年中に刊行されるこの学会の報告集に収録される予定である。 また,そこで問題にした75行目を含む第7詩節(71-80行)について,一部の写本が比喩的な意味で「暗殺者」アササンという表現を用いている(la plus mal ancessi / noquam saup enviar「これ以上のひどいアササンを彼女は送ってきたことはなかった」)。これがこの作品の成立年代をさぐる手がかりになると考え,「アササンAssassinという単語の初出について」(早稲田フランス語フランス文学論集,第25巻,pp.22-41において12-13世紀における中世ラテン語(十字軍におけるイスラム教シーア派の一派の「山の長老」にまつわる伝説),オイル語,オック語における例をさぐってみた。オック語においては8例ほどが見つかり,文字どおりの意味から比喩的な意味までさまざまであることを示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マルギナリア(写本の欄外の挿絵など,テクストそのものに付属する,しかし従来あまり解釈上はかえりみられなかった情報)を,トルバドゥールの作品解釈にいかに生かすかという課題は,少しずつ進捗している。しかし,ジラウト・デ・ボルネーユという作品も収録写本もかなりの数にのぼる大きな詩人を題材にしているために,すべてにおいて順調に進められているわけではない。
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今後の研究の推進方策 |
今後は,C写本におけるこの詩人の配置の仕方,テクストの収録状況,ヴァリアントの特徴なども考慮しつつ,マルギナリアのテクスト解釈における価値について考えを深めたいと思っている。この場合のマルギナリアは挿絵ではなく,テクスト外のrubriquesや,目次と索引,そして収録の順序といった情報を含めることにしたい。またN写本におけるジラウト・デ・ボルネーユの作品の挿絵で,学会で発表したさいの題材にした作品45以外のものについて検討を加えるつもりである。
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