研究課題/領域番号 |
16K02551
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研究機関 | 中部大学 |
研究代表者 |
玉田 敦子 中部大学, 人文学部, 教授 (00434580)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 18世紀 / フランス / 国際情報交換 / 国際研究者交流 / 啓蒙 / 修辞学 / ジェンダー / 崇高 |
研究実績の概要 |
18世紀のフランスにおいては、古代ギリシア・ローマの文化や思想潮流を汲む「男性的な習俗」が称揚され、ナショナリズムの高揚のために利用されていた。この反面、近世の宮廷作法書の影響を色濃く受け、サロンや宮廷において発展した女性的な文化は「堕落した習俗」の源泉として低く評価され、ルソーやディドロをはじめとする啓蒙の思想家たちの批判の対象となった。 本研究課題「18世紀フランスにおけるミソジニー(女性嫌悪)とナショナリズム」は、これまで研究代表者が取り組んできた「18世紀フランスにおける国家による言語政策と近代修辞学」というテーマにおけるジェンダー的な側面を、政治思想史、フランス文学、ジェンダー史など複数の学問領域の方法を併用して解き明かそうとするものである。本年度の研究においては、18世紀フランスにおいては、古典古代の文芸が「男性的」であるとして称揚されるようになったことに注目して、フランス語言語政策のジェンダー性について検討し、啓蒙の世紀において男性的な文体が推奨されるようになる経緯を明らかにした。 本年度は、2回の招待講演を含む、5回の研究発表をおこない、1本の研究論文を公刊した。日中韓三国共催の国際ワークショップ「公共知研究会」(5月)と中部高等学術研究所「人文学の再構築」サブセミナー(2月)に関しては企画に参加したほか、18世紀学会第39回大会のシンポジウム(6月)では研究報告の依頼を受けた。さらに、「革命/内乱とジェンダー」研究会(9月)、「啓蒙とフィクション」研究会(2月)において招待講演をおこなった。このうち年度前半における研究の内容に関しては、全体を練り直した上、依頼を受けて専門誌STELLAに『世界表象の光と闇:エナルゲイアとエネルゲイアの概念をめぐって』というタイトルにて投稿した。この論文は査読を経て同誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、夏季・春季の休業中、計60日にわたり、パリのフランス国立図書館において、18世紀フランス文学における「ミソジニー」と「ナショナリズム」について充実した資料調査をおこなった。また、上記出張中には、パリ・ソルボンヌ大学のセリーヌ・スペクトール教授、ピカルディ―大学ガブリエル・ラディカ准教授、ジュネーヴ大学のマルタン・リュエフ教授ら、18世紀フランス思想史の泰斗と研究打ち合わせを重ねた。現地の研究者との議論の中で、啓蒙期における父権的な家族観の確立とナショナリズムの高揚は、従来の研究においては等閑視されてきたが、フランス啓蒙を形作る重要な要素であることを確認した。 本年度の研究において、まず着眼したのは、18世紀フランスにおいて「習俗の堕落」をもたらす女性的な文化と対置され、高い価値を付与されるのは、古典古代の文芸作品に範をとり「英雄」的な行為に身を捧げる「男性」という点である。フランスでは、1701年にボワローが増補改訂したロンギノス『崇高論』の序文で、コルネイユ作品の「英雄性」をそれまで古典古代に固有の価値であった「崇高」と称したことが端緒となり、以後ボワローの「崇高論序文」は典拠として参照されるようになる。今年度は、まず、ロンギノス『崇高論』とアリストテレスの『弁論術』や『詩学』といった古代ギリシアの修辞学理論書の検討をとおして、ロンギノスによる崇高概念が、男性性の根拠とされた過程を明らかにした。 本研究課題は、「フランス啓蒙」が孕む男性性への志向に注目して探究し、「18世紀フランス研究」自体を刷新することを目指すものであるが、海外研究者との盤石な協力体制により、当初の計画以上に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
従来、啓蒙期フランス思想のジェンダー的な瑕疵はあくまで周縁的な問題と捉えられてきた。これに対して本課題の研究は、このジェンダー的瑕疵を「近代」社会の構想が内在的に抱える矛盾、すなわち「マイノリティのマジョリティへの従属」の一形態と捉え、啓蒙期フランス思想の核心として包括的に検討することを目指してきた。 今年度は、本研究課題の研究成果をまとめる年と位置づけ、まず単著書籍『崇高と近代』の執筆に集中する。執筆にあたって、フランス国立図書館等にて最終的な資料の補足に努めたい。 さらに今年度は、以下の国際研究集会、研究会において依頼を受けて研究報告をおこなう。 (1)ソルボンヌ大学のスペクトール教授、ラディカ准教授らと、31年夏に英国エジンバラにおいて開催される国際18世紀学会において、「20世紀以降におけるフランス啓蒙の受容と女性」をテーマとしたセッションを開催することを企図し、打ち合わせを重ねている。31年1月末がセッション開催の申し込み期限であるため、夏季休暇期間中に渡仏し、パリで研究集会を開催したい。 (2)フランスモンプリエ大学のClaire Fauvergue氏がパリのCollege International de Philosophie において主宰するセミネールで招待講演をおこなう。 (3)2014年より、奈良女子大学高岡尚子教授を中心として、同大学中川千帆准教授、駒澤大学倉田容子准教授とともに「ジェンダーと文学」をめぐる共同研究を継続しており、毎年研究会を開催している。本年度はこの研究会を本務校の中部大学にて開催する。
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