研究課題/領域番号 |
16K02552
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
長谷川 晶子 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (20633291)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / 心霊主義 / 霊媒芸術 / アンドレ・ブルトン / ジョゼフ・クレパン / アール・ブリュット |
研究実績の概要 |
シュルレアリスムが理論と創作において心霊主義から影響を受けて展開したという仮説を実証するという目的に沿って、本年度は以下の研究を行った。 1.フランス国立図書館において、シュルレアリスム運動の理論家であるブルトンやクルヴェル、アラゴンが心霊主義に言及したテクストや彼らが読んだと推測できる心霊主義の雑誌『心霊雑誌』や『超心理学雑誌』の記事などの資料収集を行い、テクストの読解に着手し、神秘体験の理論化に関する研究を行った。 2.シュルレアリスムの理論家アンドレ・ブルトンの芸術観を明らかにするため、アール・ブリュットの理論家ジャン・デュビュッフェの芸術観と比較し、その成果を「シュルレアリスムとアール・ブリュットの引力/斥力」(『ユリイカ』8月臨時増刊号「ダダ・シュルレアリスムの21世紀」)にまとめて発表した。 3.心霊主義の代表的な理論家アラン・カルデックやその後継者レオン・ドゥニの著作に関する文献調査をフランス国立図書館にて行い、心霊主義の教義に関する理解を深めると同時に、リール・メトロポール美術館付属図書館にて霊媒画家(ジョゼフ・クレパン、オーギュスタン・ルサージュ)に関する調査を実施し、作品の分析を行った。その成果を「フルーリ・ジョセフ・クレパンと近代心霊主義」(『京都産業大学総合学術研究所所報』(11) )にまとめた。 4.自らのシュルレアリスム美学に対する理解を深めるため、シュルレアリスムの美学に関する講演会とシンポジウムを開催した。ドミニク・シャトー氏、北山研二氏、木水千里氏に発表を通じて、より客観的かつ形而上学的な観点からシュルレアリスムの理論と創作の関係を見つめなおすことが可能になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は第一年度にシュルレアリスムと心霊主義の創作理論について、第二年度にシュルレアリスムの創作のモデルとしての心霊主義の芸術について、文献学的な調査を行う予定であったが、心霊主義関連資料とシュルレアリスム関連資料の収集を同時並行的に行うことで効率化を図った。心霊主義の資料が十分手に入ったため、予定より早く、心霊主義の理論と創作に関する調査を行い、その結果をまとめて論文として発表することができた。その代わり、シュルレアリスムにおける心霊主義に関する研究が予定よりも少し遅れている。 また、シュルレアリスム美学に関する理解を深める目的で、当初予定していなかった講演会やシンポジウムを実施した。そのため、研究の進捗に遅れがでることが予想されたが、実際には効率的に知見を得ることができ、シュルレアリスムの理論と実践の関係を俯瞰的な視点から考察することが可能になったため、研究の進展には影響が出なかった。
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今後の研究の推進方策 |
シュルレアリスム芸術と理論における心霊主義の受容を、神秘体験の理論化と創作活動のモデルとしての霊媒芸術の観点から明らかにする本研究は、資料収集と分類、理論テクストの読解ないし造形作品の分析、研究成果の発表から成る。これらはおおよそ順次展開され、第二年度は心霊主義の創作活動、最終年度はシュルレアリスムの創作活動を中心に取り上げる予定である。ただし資料収集と分類、理論テクストの読解ないし造形作品の分析は研究の全体において継続的に実施し、研究成果の発表は研究の進捗に応じて行う。
第二年度と最終年度の方向性については、具体的には以下の3つである。 1.シュルレアリスムが心霊主義の理論を参照しながら、創作活動を導く方法として「オートマティスム」を構想し、独自の美の基準を提案するに至った過程を明らかにする。その上で、シュルレアリスムと心霊主義の理論的テクストを神秘体験の理論化という観点から比較し、類似点と相違点を明らかにする。1910年代後半から1920年代を中心に、シュルレアリスム初期の芸術論の確立において心霊主義が与えた影響を画定し、その成果を論文にまとめる。 2.シュルレアリスムの創作のモデルとなった可能性の高い心霊主義の画家オーギュスタン・ルサージュとジョゼフ・クレパンの作品を詳細に分析すると同時に、文化的背景を明らかにすることにより、彼らの創作の実態を再構成する。霊媒画家が心霊主義の理論をどのように解釈し、神秘的なヴィジョンをどのように表現したのかを明らかにする論文をまとめて発表する。 3.心霊主義の画家の創作の実態を明らかにした成果に立脚し、イヴ・タンギーらシュルレアリストの画家たちが霊媒芸術を評価し、自分たちの創作に生かした過程を解明する。「創作モデルとしての霊媒芸術」に関する研究成果をまとめて、論文として発表する。
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