研究課題/領域番号 |
16K02552
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研究機関 | 京都産業大学 |
研究代表者 |
長谷川 晶子 京都産業大学, 外国語学部, 准教授 (20633291)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シュルレアリスム / 心霊主義 / アンドレ・ブルトン / ジョゼフ・クレパン / アール・ブリュット |
研究実績の概要 |
シュルレアリスムが理論と創作において心霊主義から影響を受けて展開したという仮説を実証するという目的に沿って、本年度は以下の研究を行った。 1.シュルレアリスムにおける心霊主義の受容に関する研究:フランス国立図書館において、シュルレアリスム運動の理論家たちが読んだと推測される心霊主義の雑誌『心霊雑誌』や『超心理学雑誌』に掲載された記事などの資料を収集、検証し、特に文体の面から彼らが神秘体験を理論化する際にどのような影響を受けたのかを明らかにした。 2.霊媒画家の代表的な画家ジョゼフ・クレパンに関する研究:ブルトンが第二次世界大戦後に評価したクレパンの活動の実態を明らかにするために、リール・メトロポール美術館付属図書館やパリのアル・サンピエール美術館にて、クレパンが読んだとされる心霊主義の理論書(特にレオン・ドゥニ)や、友人で同じく霊媒画家だったヴィクトル・シモンの芸術活動と理論書に関する調査、および作品分析、作品に関する調査を行った。同時に、クレパンやルサージュをはじめ霊媒画家を数多く輩出した北フランスに関する調査も実施した。クレパンと北フランスに関する成果は、近く書物の形(『フルリ・ジョゼフ・クレパン 日常の魔術』水声社)で発表する予定である。 3.アール・ブリュットに関する研究:クレパンは現在アール・ブリュットの画家として紹介されている。リール・メトロポール美術館やナントのギャルリー・アール・ブリュットなどの専門家の学芸員などから霊媒画家の占める位置や心霊主義に関する研究の最新の動向などの情報を得つつ、アール・ブリュットに関する研究成果を調査した。それにより、クレパンやルサージュら北フランスの霊媒画家を包括的な観点から見つめ直すことが可能となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、シュルレアリスムの創作のモデルとなった可能性の高い心霊主義の画家オーギュスタン・ルサージュとジョゼフ・クレパンの作品を詳細に分析すると同時に、文化的背景を明らかにすることにより、彼らの創作の実態を再構成することを試みた。 当初、第一年度にはシュルレアリスムと心霊主義の創作理論に関する文献学調査、第二年度にはシュルリアスムの創作モデルとしての心霊主義に関する文献学調査を行う予定だったが、心霊主義とシュルレアリスムの関連の資料収集をフランス滞在中に同時並行的に行うことで、効率化を試みた。ただしシュルレアリスムの理論家たちの心霊主義に関するテクストの収集が予想以上に難航しているため、シュルレアリスム理論における心霊主義の受容に関する研究はあまり進んでいない。その代わりに霊媒画家の活動に関する研究を予定より早く進めることができ、シュルレアリスムの画家たちに関する研究に着手できているので、研究全般として見ると、進捗にさほど影響はない。
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今後の研究の推進方策 |
シュルレアリスムの美術論と美術が心霊主義の理論と創作をどのように受容して利用したのか、その射程の画定を目指す本研究は、神秘体験の理論化と創作モデルとしての霊媒芸術の二部から成る。平成28年度と29年度には、創設期のシュルレアリスムが心霊主義の理論を参照しながら創作活動を導く方法を構想した過程と、彼らに影響を与えたと考えられる心霊主義の創作活動の実態を明らかにした。 最終年度の方向性については、以下の二つである。 1.シュルレアリストに影響を与えたと考えられるジョゼフ・クレパンと北フランスの霊媒画家に関する研究を書物の形(『フルリ・ジョゼフ・クレパン 日常の魔術』水声社)でまとめる。 2.イヴ・タンギーらシュルレアリストの画家たちが霊媒芸術を評価し、自分たちの創作に生かした過程を解明する。「創作モデルとしての霊媒芸術」に関する研究成果をまとめて、論文として発表する。
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