研究課題/領域番号 |
16K02557
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大宮 勘一郎 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (40233267)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ドイツ文学 / 抗争論 / 正義論 |
研究実績の概要 |
ドイツ文学における「抗争」モティーフを検討する作業として、レッシング、ゲーテ、クライスト、ヘッベルらの作品の分析を行い、その中間的成果を平成28年4月にドイツ、ハーゲン大学における招待講演の枠で発表した。また、同5月にはマンハイム大学における招待講演枠で「抗争」と「正義」の近代思想史について講演を行った。同8月には韓国・ソウル市の中央大学校を会場としたアジア・ゲルマニスト会議において基調講演を行った。総合テーマ「大きな変革期におけるドイツ文学」に準拠し「グローバル化の時代における翻訳の使命」という題目で、「翻訳」における言語間の抗争性の表現という役割の重要性を指摘した。もとより「抗争」とは、共通の秩序を遵守することを前提とした、主に言論によるたたかいであり、アジア各国のドイツ文学者との率直・真摯な意見交換は、本プロジェクトの展開にとっても非常に意義のあるものであった。研究代表者の講演をもとにした論文が、記録論文集に掲載される予定であり、目下韓国側編集委員会において編集中である。同11月には、ベルリン・学術アカデミーにおいて「人文科学と社会的要請」というフォーラムに参加し、人文科学にこそ本質的に託されている抗争性の社会的意義を主張した。このフォーラムには、いまだに少なからぬ反響がある。さらに同月、ベルリン自由大学フリードリヒ・シュレーゲル研究所において、「日独比較文化論」をめぐるシンポジウムに参加し、日本浪漫主義が1930年代の知的文脈において果たそうとし、必ずしも果たし得なかった抗争的役割について講演を行った。本講演をもとにした論文が刊行される見込みである。その他、ドイツ文学やドイツ思想に関するいくつかの啓蒙的小文を、様々なメディアに寄稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究1年目の課題とした、「抗争」に関する理論的準備と18世紀ドイツ文学の再検討、すなわちゴットシェート/ボードマー論争、レッシングの悲劇論、ゲーテ、シラー、クライスト、ヘルダーリーンらの実作および理論的著作の整理は、かなりのところまで進んでいる。その成果として、研究実績の概要に記述したように、海外での講演を5本行い、その都度本プロジェクトの意義について肯定的な反応を得てきた。こうした点に鑑み、概ね計画通りに進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目の平成29年には、19世紀における「抗争」の変容を跡づけたうえで、20世紀前半の議論における「抗争の中から形成される主体」にまつわる理論的流れを跡づけてゆく。その際、同じく人間の双数性あるいは複数性を前提とする「友愛」、「恋愛」、「正義」といった隣接諸理念との関係に重点を置いてゆく。考察の対象となるのは、19世紀に関してはビューヒナー、ハイネ、マルクスらであり、19世紀末以降ではニーチェ、ローゼンツヴァイク、ベンヤミン、C・シュミット、アーレントらである。そのうえで、同時代の実作家としてカフカ、ツェラン、G・ベンらのテクストを「徐々にその都度形作られる作者性」という観点から再検討する。夏季に客員教授としてベルリン自由大学に短期滞在し、資料収集および3年目におけるシンポジウム開催計画について、ダニエル・ヴァイドナー教授(ベルリン・フンボルト大学)と打合せを行う。 3年目の平成30年は、「抗争」に関する歴史的研究をドイツ文学の言説史記述としてまとめるべく整理、構成する時期とする。
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