研究課題/領域番号 |
16K02559
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 純 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (70107522)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ルター / 神秘主義 / タウラー / 宗教改革 |
研究実績の概要 |
初年度に当たる平成28年度は、計画にしたがって、第一に、ルターと神秘主義というテーマ、また1522年頃までの初期思想発展の問題を中心にこれまでの研究文献を収集、参照し、また、ルターが直接読んだ神秘思想家ヨハネス・タウラー、およびその説教集(下記)に一部所収の(代表的ドイツ神秘思想家)マイスター・エックハルトのドイツ語説教にあたった。 第二に、ドイツ(ザクセン州)ツヴィッカウ旧市参事会図書館所蔵のタウラー説教集(1508年アウグスブルク刊)へのルターの注記(一般に1516年頃と推定されている)について、まずは現行エディション(ワイマール版全集第9巻〔1893〕所収)およびそれを一部訂正したヨハネス・フィッカーの研究(1936)、さらに研究費受給者(筆者)が1980年代に行なった現地調査の際のメモをもとに、同書バイエルン州立図書館所蔵本デジタル版を参照して注記の文脈を推定することによって、新エディションの下準備を行なった。その上で、9月のツヴィッカウ現地調査では、各注記の位置やインク等の相違の確認、判読困難部分の解読など詳細な分析を行ない、現行エディションの部分的訂正や、これまで研究されてこなかった注記の時期的区分についてなど、多くの知見を得ることができた。しかしこの点については、さらなる調査・分析が必要である。 また、同じくドイツ(バーデン・ヴュルテンベルク州)テュービンゲン大学での調査では、タウラーへの注記に見られる概念・表現等のルターにおける使用を包括的に捉えることを中心に、資料調査を行なった。 第三に、第一回詩篇講義草稿(1513-15)およびその一部の新稿(1516)、ロマ書講義(1515-16)草稿とならんで、神秘主義との関連も指摘される1517年のいわゆる「95箇条の提題」とそれに関連する「悔い改め」を巡る諸文書についても分析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
とくにツヴィッカウ旧市参事会図書館所蔵のタウラー説教集へのルターの注記にかんして、従来も確認されていた2種類のインクの区別(赤および黒褐色ないし黒)に加えて、製本の際のカットによって欠損が生じたと考えられる注記が少なくないこと、また、綴じ目に非常に近い位置に書き込まれているため製本後では記入が困難であったはずと考えられる注記もあり、しかもその両者とも、赤インクを用いた注記に限られることが確認できた。他方、黒褐色インクによる注記には、製本の際にカットされたページの端を前提するような記入(行換え)も見られる。 このことは、赤インクによる注記と黒褐色インクによる注記の記入時期が、製本の前後に分かれる可能性を示している。これは、この書籍の所有者(ルターへの貸与者)であり、1511年夏にルターと共にエルフルト修道院からヴィッテンベルク修道院に移っていた友人ヨハネス・ラングが、1516年2月にエルフルトに戻されていること(ルターは終身ヴィッテンベルクに留まる)とからみ、ルターがこの書籍を手にした時期について、予想外の新たな手がかりとなりうる。 これは、ルターと神秘主義のかかわりを一番具体的に示す資料である、タウラーへの注記についての文献学的新事実として、重要なものとなりうる中間結果であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
上記の文献学的観察をもとにタウラー説教集への注記の時期について分析するには、内容上の分析と共に、同書籍の装幀の分析、さらには、製本の際「見返し」「扉」などに用いられた紙の分析などが必要となる。平成28年度、調査から帰国後、問題の装幀分析に関して、手持ちのものに加え入手可能な研究書(装幀文様カタログ)等を収集し参照したが、それによっては分析は進まなかった。今年度の調査旅行では、とくにヴィッテンベルクや近くのライプツィヒなどの当時の製本事情について、および、ツヴィッカウの原本の紙を確認し、「透かし」の分析などによって製本地の確認ができるかどうかについて調査する、というあらたな課題が加わった。それを含め、ツヴィッカウ、ヴィッテンベルク、ライプツィヒ、エルフルトなどを初めとするドイツ各地で、資料調査、研究文献調査を行なう。 それとならんで、研究実施計画にしたがって、29年度は、『ドイツ神学』の分析や、タウラーやエックハルトとの比較研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
3万円あまりを繰り越すこととなったが、ツヴィッカウ旧市参事会図書館に依頼した、ルターの注記のある書籍のデジタルコピーの支払いのため書籍購入を控えていたところ、28年度中には届かず(いまだ届いていない)、学部事務部とも相談の上、この程度の繰越は問題がないということで、繰り越させていただいた。
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次年度使用額の使用計画 |
29年度分を合わせ、書籍、デジタルコピー等の購入に当てる。
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