研究課題/領域番号 |
16K02559
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
松浦 純 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (70107522)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ルター / 神秘主義 / タウラー / 装幀分析 / 紙の分析 / 宗教改革 |
研究実績の概要 |
第一に、前年度の調査成果を中心に学会発表を行ない、資料調査を継続した。学会発表は、8月初めヴィッテンベルク開催の宗教改革500年記念国際ルター学会での小報告として行なったが、学会座長であったルター協会会長からプロジェクトへの全面的支援の申し出を受けるなど、好意的な反響があった。また、この学会では1517年の「95箇条の論題」を主題とする分科会に参加し、ルターの思想形成との関連で発表を行なった。広くルターの思想史的意義については、10月末に台湾独文学会の年次大会で、また11月には獨協大学で講演を行なった。資料調査は、昨年度の調査の結果、1516年前後と考えられるタウラーへの書き込みの正確な時期ないし時期区分の問題に関して、ルターが用いたタウラー刊本の製本時期が一つの指標となる可能性が浮かび上がったため、その装幀と、製本時に用いられた紙の分析が中心となった。具体的には、装幀と用紙の分布を手がかりに、とりわけエルフルト、ヴィッテンベルクのどちら(の近辺)が製本地であった蓋然性が大きいかを探ることが課題である。ヴィッテンベルクの2図書館はじめ、ツヴィッカウ、ライプツィヒ、ハレ(2館)、イエナ、ミュンヘン(2館)、ベルリン(2館)の図書館・公文書館での調査によって、装幀に見られる型押しは類例がごく少数であること(現在3例)、用紙については、ライプツィヒの一出版社のルターの書き込みとほぼ同時期(1515年)の刊行物2点と、ヴィッテンベルクに近いツィエーザルで書かれたマインツ・マグデブルク大司教ほかの書簡(1516.10)に同種のものが用いられていることが確認できた。まだ調査が不十分とはいえ、製本地はヴィッテンベルクか、近くのライプツイヒであった蓋然性がより高いと思われる。第二には、『ドイツ神学』を含め、1515年から21年にかけてのルターの刊行物・討論・書簡・講義草稿等の分析を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
必ずしも当初の予定どおりではないが、「研究実績の概要」に記したように、研究プロジェクトの国際的認知と、文献学的資料調査の点で、新たな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の資料調査の際、調査期間の不足が感じられたため、調査後、平成30年度の調査期間を予定より延長する費用に充てるため、文献購入費を抑制した。30年度も、1月ほどの資料調査期間をとりたいと考えている。また、最終年度に当たるため、タウラーへの書き込みの新エディションの準備を出来るだけ進めるとともに、計画にもとづいて、中世の神秘思想とルターとの関わり、また、言葉の問題についての分析を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
ドイツでの資料調査の際、時間(期間)の不足が明らかになったため、次年度の調査期間を十分確保するため支出を控えた。繰越分を加えて、調査費(出張費)を当初の予定より増額し、調査を行なう。
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