昨年度までの研究により、ルターと神秘主義の関わりの最も直接的な資料であり、その意味で本研究の焦点と言える、「ドイツ神秘主義」の代表者の一人ヨハネス・タウラーの説教集(アウクスブルク1508年刊、ツヴィッカウ旧市参事会図書館蔵)へのルターによる書き込み(1516年頃)をめぐる文献学的な問題の解明とそれに基いた新刊行が、研究の基礎として、また国際的な専門研究界への貢献として、とりわけ大きな意味を持つこと、そしてそのためにはより徹底した調査が必要なことが、明らかとなっていた。このことから、昨年度の研究費を10数万円繰り越し、それを加えた今年度研究費をほぼ全額当てて、4週間の資料調査を行なった。これが第一点となる。内容は、同説教集へのルター以外の手による書き込みの分析および製本に使用された紙の分析(ツヴィッカウ)、同説教集の所有者(ルターへの貸与者)ヨハネス・ラングの他の旧蔵書の製本に用いられた紙の分析(エルフルト)、ヴィッテンベルクの同僚カールシュタットが同時期に製本させた同説教集の製本と製本用紙の分析(ヴィッテンベルク)、同時期に同市の書籍商ドェーリングが無名氏に贈与した同説教集(ライプチヒ1498年刊)の製本と製本に用いられた紙の分析(ライプチヒ)、ライプチヒ、ヴィッテンベルクおよびエルフルトで同時期に書籍刊行に用いられた紙の分析(ツヴィッカウ、ドレスデン、ヴィッテンベルク、ハレ、ライプチヒ、イエナ、ゴータ、エルフルト、ヴォルフェンビュッテル、ミュンヘン、ベルリン)、ヴィッテンベルクを居城としたザクセン選帝侯の官房が同時期に使用した紙の分析(デッサウ、ワイマール)、ルターが同時期に行なったロマ書講義の草稿との字体比較(ドレスデン)等である。第2点、この書き込みのエディション準備として註解作業を進めた。第3点、タウラーおよび師エックハルトほかの神秘思想の研究を進めた。
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