研究課題/領域番号 |
16K02560
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
大崎 さやの 東京藝術大学, 音楽学部, 講師 (80646513)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 台本作家 / 創作理念 / 詩と歴史 / イタリア演劇 / ブゼネッロ / ゴルドーニ / メタスタジオ / オペラ・セーリア |
研究実績の概要 |
今年度は、国内での資料収集を中心に研究を進め、雑誌論文3本を発表した。 昨年度の「モンテヴェルディ生誕450年記念シンポジウム」で発表した内容を発展させ、論文「《ポッペーアの戴冠》の解釈をめぐって -ブゼネッロによる地上の生の賛歌-」として、国内初のオペラ専門学術誌である「早稲田オペラ/音楽劇研究」(創刊号)上で発表した。歴史上の人物が登場人物となる初のオペラ台本を書いたブゼネッロの詩作に、カステルヴェトロやマスカルディ等が与えた影響を考察し、またブゼネッロが属していた「知られざる者たちのアカデミー」の作品への思想的影響、さらに歴史的背景を分析し、過去の研究者達による解釈を考察しつつ、この作品の解釈を再考した。 「演劇学論集」第67号には、論文「ルイージ・リッコボーニの『演技術について』─イタリアにおける演技論の伝統を背景に─」を発表した。リッコボーニの1728年の「演技術について」が、「弁論術から解放」されているとする過去の研究者たちの指摘を前提に、「演技術について」やそれ以前のイタリアの演技論を、古代の弁論術と照らし合わせることを通じて、どの点でリッコボーニの演技論が弁論術から解放されたと言えるのかを検証した。その結果、これまで指摘されてこなかったことであるが、「演技術について」にはアリストテレスやホラティウスに基づく詩学の理論が取り入れられていることが判明した。また演技における「理想の表象」の主張により「自然の模倣」に「人間の創造性」が導入され、「感受性」の主張により演技論にフランスの新しい思想が取り入れられていることが分かった。 「東京藝術大学音楽学部紀要」第44号には、論文「ゴルドーニとオペラ・セーリア-メタスタージオ作品との関係を中心に-」を発表し、ゴルドーニのオペラ・セーリア、オペラ・ブッファに見られる、メタスタージオ・オペラの影響を検証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ブゼネッロの創作理念に影響を与えた、カステルヴェトロやマスカルディによる詩学理論を分析することで、その後のオペラ台本においてもその創作理念の中心となっている詩学の理論に関する理解が深まった。18世紀の演技論である「演技術について」に、弁論術というよりむしろ詩学の理論が色濃く反映しているという新たな発見も、18世紀の劇作における詩学の重要性を認識するに十分なものであった。当時のオペラ台本作家たちが、上演の実際に合わせて創作を行っていたことを考えると、詩作面だけでなく俳優達の演技にも詩学の理論が応用されていたという発見は、台本作家の創作理念を捉える上で重要であったと思われる。さらに「ゴルドーニとオペラ・セーリア-メタスタージオ作品との関係を中心に-」での、ゴルドーニが自作でメタスタージオ作品をパロディ化し、喜劇的要素として活用していたという発見は、詩学の理論から離れたところでオペラ台本が創作されるようになったことの証左でもあり、18世紀における台本作家の創作理論の変遷を捉える上で有効であった。
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今後の研究の推進方策 |
2019年7月にエジンバラで開催される国際18世紀学会で、ゴルドーニ作品についての報告を行う予定であるが、18世紀のゴルドーニ作品に見られる、彼以前のヴェネツィア・オペラ台本の影響を分析することを通して、18世紀イタリアの喜劇やオペラ台本に見られる伝統と革新についての研究を深めたい。また、2017年度に「啓蒙とフィクション」研究会で口頭発表した「ゴルドーニのオペラ『スタティーラ』をめぐって」の論文化を目指す。さらに、現在刊行に向けて準備が進められている論文集に発表予定の、イピゲネイアの変貌に関する研究を進めたい。この研究では、古代のエウリピデスや17世紀のラシーヌの悲劇、また18世紀のデュ・ルレやギヤールの台本によるグルックのオペラ等に登場する女性人物、イピゲネイアの変遷を扱う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加を予定していた国内での学会を見合わせたため残額が出た。今年度は予定通り学会への参加で使用する見込みである。
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