今後の研究の推進方策 |
研究課題(2)については、2018年度の成果の一部をさらに発展させたものを、7月にボストンで開催される国際ドストエフスキー協会(IDS)のシンポジウムで発表予定である。そこでは(3)の課題にも触れるとともに、2015年におこなった学会発表"Crisis of Seeing in Bakhtin and Dostoevsky"(国際中欧・東欧研究協議会ICCEES第9回世界大会)で提起した「外傷的な視覚」という問題を発展させることも意図している。 2019年度で加速させるべき課題は(1)のバフチンとヴィゴツキーの比較であり、とりわけ、ヴィゴツキーの記号論の検討を集中的におこなう。具体的には、①『芸術心理学』(1925年)を中心としたヴィゴツキーの身体論の検討であり、2015年に刊行がはじまった全集の第1巻(Полн. собр. соч., т. 1, М., Левъ, 2015)に収められた短い論考も可能な限り参照しつつ、ヴィゴツキーの初期の思索にみられる反射学的記号論の萌芽を検討する。②さらに、『高次精神機能の発達史』1930-31年および『情動に関する学説』(1931-33年)といった著作を中心に、記号を「人間が行動の統御(овладение, mastery)のために作りだした手段」と捉えるヴィゴツキーの記号観を検討する。このことは同時に、今日「情動論的転回」と呼ばれているものの検討という(4)の研究課題に直結するものであり、記号の問題に「身体の統御」という観点からアプローチすることによって、「情動の権力」や「制御社会」に関する近年の議論に寄与することを目指している。
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