本研究では、20世紀初めのロシアにおける記号をめぐる思考のうちに複数の異なった潮流を認めることを試みた。バフチンとヴィゴツキーの記号論の差異は、「顔の現象学」と「身体の統御」という異なる文化的パラダイムの対立として理解することができる。ドストエフスキーの作品から最大のインスピレーションを得ているバフチンの対話主義は、19世紀における「顔」をめぐる想像力の変容という文脈で捉えなおすことができる。情動的記号に関するヴィゴツキーのアイデアは、同時代の生理学やアヴァンギャルド芸術と共鳴しつつ、近年、文化理論における「情動論的転回 Affective Turn」と呼ばれているものに大きく寄与する。
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