本研究は、近代化が本格化する19世紀後半のロシアの文学(特にドストエフスキー作品)を、贈与交換論や近代世界システム論などの経済的観点から考察するものである。この時代、ロシア社会に近代的な非人格的社会制度(貨幣経済など、神への信仰や専制君主への服従や隣人愛などの人格的要素なしに稼働する制度)がより体系的に導入されるが、近代世界システムの周縁に位置する社会では、これらの制度の導入は逆説的に、人格的関係や神への信仰を強化する。本研究は、文学作品の分析を通してこの論理を追い、当時のロシア社会における人間主体形成と経済問題の関係性や、それが文学テクストの芸術形式に及ぼした影響を明らかにする。
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