研究課題/領域番号 |
16K02566
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥田 敏広 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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研究分担者 |
Trauden Dieter 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), その他 (20535273)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フリードリヒ・ヘッベル / 神話と歴史 / ニーベルンゲン伝説 |
研究実績の概要 |
フリードリヒ・ヘッベル(1813‐1863)の最後の作品であり代表作である『ニーベルンゲン族』を取り上げて分析した。ヘッベルはその戯曲に『あるドイツ悲劇』というの副題を付けており、「ドイツ」をめぐる問題がこの作品の大きなテーマになっていることは、すでに多くの研究者が認めているからである。 しかしその際ヘッベルは、素材となったニーベルンゲン伝説を「国民叙事詩」と呼んでいるが、前年度の研究で明らかにしたように、それには留保が必要で、実際には19世紀において特にロマン派の活動の中で大きく注目され出した伝説であることに注意しなければならない。 そのことを踏まえた上で、この戯曲上でを分析したところ、そこで展開される世界は、一面において近代の原理たる合理性と自由、あくなき競争が徹頭徹尾支配する社会であることが分かった。にもかかわらず、ヘッベルはそこに、原初的な神話の世界を対置し、両者をあくまで戦わせようとしている。そしてその戦いの結果として、神話の敗北という「悲劇」を描き出さずにはいられなかった。つまり、『ニーベルンゲン族』という作品は、伝説を素材にしながら、歴史に対する他でもない神話の敗北を「ドイツ悲劇」として描く作品になっていることを、作品分析を通して明らかにした。そのような意味で、それは単純な神話への回帰を行う作品でもなければ、単なる近代批判の作品でもない。神話の必要性と意味をあくまで訴え表現しようとしつつ、「ドイツ的なもの」が近代では不可能になっていることを冷徹に認識して、かつそれを正確に描き出そうとした作品ということができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フリードリヒ・ヘッベル(1813‐1863)の最後の作品であり代表作である『ニーベルンゲン族』を取り上げて考察した。当時ヘッベルは、19世紀を代表する劇作家であり、プロイセン王国が創設したシラー賞の第1回受賞者ーとしていわば国民的詩人でもあったので、その作品において彼が同時代のヨーロッパとドイツの社会をどのように考え、またそこにおける神話と伝説の意味についてどのように考えていたかを分析することは、19世紀のニーベルンゲン伝説をめぐる「ドイツ的なもの」の正統性と虚構性を明らかにするという本研究のテーマにとって不可欠のことだからである。 そして、上記のように、ヘッベルのニーベルンゲン族』という作品は、神話の必要性と意味をあくまで訴え表現しようとしつつ、「ドイツ的なもの」が近代では不可能になっていることを冷徹に認識して、かつそれを正確に描き出さずにはいられなかった作品であるという、一応の結論を得られたことで、研究はおおむね順調に進展していると言える。 ただ、ヘッベル以外の作家についてももう少し考察すべきだったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
19世紀のニーベルンゲン伝説を考察する上で、今日においても依然として圧倒的な影響力をもつリヒャルト・ワーグナーの『ニーベルングの指環』の検討は極めて重要であり、研究最終年においては、このワーグナー作品の分析を中心に研究を行う予定である。 そしてその際の研究の中心の一つは、本場のバイロイトにおいて現代の代表的な上演を見て、その演出を分析し検討することになる。現代の演出に表れている今日の視点からのワーグナー作品の解釈は、19世紀におけるニーベルンゲン伝説をめぐる「ドイツ的なもの」とは、明らかに区別するべきものであるが、後者についてすでに研究に基づく一定の見解を得ている本プロジェクトにとっては、むしろそのような方法こそが、後者の19世紀における「ドイツ的なもの」の特徴を浮かび上がらせることになり、本研究のいわば総仕上げにすることができると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の考察対象がほぼヘッベルに限定され、他の作家についてあまり触れられなかったために、資料購入費が予定より少なくなった。この分は、次年度のワーグナー作品の分析に回し、その上演を予定より多く見るための海外旅費として使用したいと考えている。
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