研究課題/領域番号 |
16K02566
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
奥田 敏広 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (60194495)
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研究分担者 |
Trauden Dieter 京都大学, 人間・環境学研究科, 外国人教師 (20535273)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ワーグナー / ニーベルングの指環 / フランク・カストロフ / 石油 / バクー |
研究実績の概要 |
19世紀のさまざまなニーベルンゲン作品と「ドイツ的なもの」の成立をについて研究し考察するにあたって、現代におけるニーベルンゲン作品の受容について検討することが重要であることは言うまでもない。また、現代におけるニーベルンゲン作品受容と言えば、ワーグナーの『ニーベルングの指環』4部作が圧倒的な部分を占めていることは間違いない。そういう訳で、そのワーグナーの『指環』需要の中でまたきわめて重要な役割を演じてきたバイロイトにおける最新の上演を検討の中心に研究を進めた。入手の難しいバイロイトの音楽祭のチケットを手に入れ、実際に作品の上演を体験できたことは、以下に述べるように非常に有意義であった。 2013年以来上演されてきたフランク・カストロフ演出の『指環』は、時として原作を逸脱し変更することも珍しくない近年のオペラ上演一般や、特にその先鋭となってきたバイロイト音楽祭の中でも、その奇抜ぶりが目立つ演出であり、その逸脱ぶりは時評や批評においてももっぱら非難の対象となってきた(ペトレンコ―ヤノフスキ―ドミンゴと続く指揮者のオーソドックスな音楽が評価されたのとは対照的である)。何といっても、それを巡って戦いが繰り広げられるニーベルングの宝が、ここでは政治家や石油コンツェルンが世界を股に争奪戦を展開する「石油」となり、舞台は金融資本の総本山たるニューヨークや、一時は世界の石油のほぼ半分を産出し、帝政ロシアや旧ソ連が侵攻支配し若きスターリンも駐屯したことがある中東の多民族都市バクーなのである。 これは、超(非)時代的で普遍的な『指環』の世界ではなく、非常に具体的な20世紀の歴史的・社会的・政治的なドラマであり、作品が時代や社会といかに密接に結びついて受容されるかを、きわめて説得的に例証するものだと言わねばならない。本研究の「ドイツ的」なものの成立について考察する際にも非常に示唆的な成果だと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
今年度は最終年度なので、当初の計画は以下のようであった。まずニーベルンゲン伝説の現代における受容を取り上げ、それを19世紀の受容と比較して伝説受容におけるドイツ的なものあり方を考察し、それを受けて本研究の総括をする、という予定であった。しかし、長年の不摂生もあり体を壊して、9月に手術を受け、その入院が11月末まで続き、その後も通院治療が続いたために、当初の計画を途中で断念せざるを得なかった。 しかし、計画のほぼ半分は遂行できたので、それらについては上記「研究実績の概要」において報告しているが、残念ながら論文や口頭で発表することはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
一般に作品が時代や社会といかに密接に結びついて受容されるかは、今年度(2018)の研究において明らかにすることができた。それを受けて今後は本研究の対象となる時代の背景と影響を、ドイ ツが国家とし統合されていく当時の社会と政治の中に位置づけながら、批判的な分析を通して検討することによって、近代以降の「ドイツ的なもの」の成立の諸相を具体的に 明らかにしたい。 その際フリードリヒ・ヘッベルの最後の作品でライフワークともい うべき二部作『ニーベルンゲン』とフリードリヒ・ドゥ・ラ・モッ ト・フーケーの三部作の大作『北方の英雄』(1810 年)はすでに分析し考察したが、さらにF・ヘルマンの『ニーベルンゲン』(1819 年)、E・ラ ウパッハの『ニーベルングの宝』(1828 年)、E・ガイベルの『ブルンヒルト』(1857 年)、 W・ヨルダンの『ジークフリート伝説』(1868 年)、R・ジキギスムントの『ブルンヒル デ』(1874 年等)も取り上げることによって「ドイツ的なもの」の成立の全体像に少しでも近づきたいと考えている。 最後に、F・シュレーゲルが発行していたの雑誌「ヨーロッパ」 誌上で活躍していたロマン派の人たちも、「ドイツ的なもの」の成立において非常に重要な役割を演じていた。 そもそもフーケ―の長編三部作の完成も彼らの勧めや意見がなければ実現していなかった。そ ういう意味で、シュレーゲル兄弟、グリム兄弟、アルニム、ブレンターノ、ゲレス、 ティーク等の、この作品と「北方」および「ドイツ的なもの」をめぐるロマン派の 言説を著作や論文、日記、手紙等について、丁寧かつ詳細に追い分析する必要がある。 以上のような過程を経て、「ドイツ的なもの」の成立における「正当性と虚構性」の具体的な諸相を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者が体を壊して9月に手術を受け、その入院が11月末まで続き、その後も通院治療が続いたために、当初の計画を途中で断念せざるを得なかったため。 次年度使用額は、去年度に途中で断念せざるを得なかった研究計画を遂行するために用いる。
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