本研究の学術的意義は、思想史および学問史において提示された人間学的転回の概念を文学史に適用し、それが近代文学成立に大きく関わっていることを明らかにした点である。すなわち、人間学的転回は近代的人間ともいえるような新しい人間像をもたらしたが、そのような人間を文学が対象として扱うようになり、それによって近代文学といえるような新しい文学形式が成立してきた過程を示したのである。またそのようにして始まった近代文学は、その理論と実作において近代的人間が喪失した調和的総体性の回復の試みを様々な形で行っており、それは現代および将来における新しい文学の可能性を考えていく上でも大きな意義を有するであろう。
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