歴史的に複数の中心をもつ政治的伝統を有し、加えて過去半世紀にわたって社会構成に変容をもたらすほどの人口移動を経験してきたドイツ語圏においては、多文化的背景を有し、複数言語との密接な関係の中から創作活動を押し進める作家が数多く登場した。本研究では<創作システムとしての翻訳>をキーワードに、このような社会的・文化的状況を積極的に引き受けつつ創作を行った20世紀スイス文学の作家(R・ヴァルザー等)から現代の東欧文学翻訳者=越境文学作家(I・ラクーザ等)にいたるまでの作品をとりあげ、個々の作品分析、作家研究に基づきつつ、多文化・多言語状況に内在している文化創造の可能性を明らかにした。
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