研究課題/領域番号 |
16K02573
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
城 眞一 東京医科大学, その他部局等, 名誉教授 (60424602)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リルケ / オカルティズム / 実証科学と心霊主義 / 降霊術の詩論 |
研究実績の概要 |
初年度は研究資料の収集を第一の目標として掲げ、以下の手順に従っておおむねそれを達成できた。 まずリルケとオカルティズム関係の資料収集に当たって、あらかじめ「オカルティズム」の語義を時代区分と本質において限定する必要が生じた。リルケの場合、問題となるオカルティズムは、19世紀半ばに米英仏独において流行り始めた心霊科学、すなわち心霊的現象を実証主義科学の立場から立証する試みであることが判明した。その際、ひとつの見通しが期せずして得られた。それは、詩人がこの立場に立脚しつつ、それを詩的論理へと昇華させたとき、あたかも降霊術における霊媒のような、オルフォイス的世界からの声を聴くメディアとしての使命が、おのずと生まれてくるであろうという推察である。 この仮説的観点から文献収集を行ったが、それは、まずリルケに関する二次資料のうち比較的最近の書籍、ついでリルケとオカルティズムを扱う既刊の文献、とくに2000年前後から現代に至る比較宗教学的視点からの研究書、さらには詩人以前のリルケが心酔したカール・デュ・プレルの著作のうち、とくにリルケの読んだ文献、―おもにこれらを対象として進められた。なおこの第三番目のデュ・プレルの著作については、可能なかぎりリルケの読んだ版、あるいはそう推定される版を入手することを心掛け、大半の時間と多額の予算を費やしたが、ほぼ達成した。資料の収集と整理に充てた初年度では、課題を俯瞰するに必須の文献は入手し得たのではないかと思われる。しかしこの作業を口頭発表や論文によって残すには至らなかった。 初年度には、川島隆氏が継承した第三次「プラハとダブリン」(基盤研究(B))の研究例会に招請され、『「プラハとダブリン」研究会のこれまで』と題して報告するとともにリルケとオカルティズム研究の重要性を説いた。この作業は次世代への引継ぎの一環であって、研究の連続性に寄与した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記「研究実績の概要」に記した内容を11月に論文(仮題「リルケとオカルティズムを論ずるに当って」)として発表する予定であったが、やむを得ない事情によって頓挫した。
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今後の研究の推進方策 |
先ず初年度において能わなかった論文執筆に携わりたい。文献収集の方法を論ずること自体が、この研究全体の輪郭を確定するためには必須の作業であろう。 その上で、今後も文献検索は、既述の3主題を中心に進める予定である。ただし加うるにフランスと英国における19世紀の心霊科学の隆盛のさまを是非とも視野に入れるべく努力したい。幸いにして、科研第二次「プラハとダブリン」の若手研究者の複数が、イエィツ、ジョイス、ベケットらをこの立場から論じている。目下、私もまた連携研究者として第三次「プラハとダブリン」に関わっているので、この領域で高レベルの最新の知見を享受できるものと期待している。 2年度目に予定していたマールバハでの資料収集と、ダブリンとベルリンの共同研究者訪問は、やむを得ざる事情によってほぼ不可能となった。従って「交付申請書」にあらかじめ記載したとおりの代替措置を採る予定である。すなわち実際の訪問に代えてインターネット・メイルによる情報交換と、資料収集を試みる。そのさいにも、第三次「プラハとダブリン」の研究代表者に協力を仰ぐ予定である(本人の了承済み)。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度に計画していた資料収集旅行が、やむを得ざる事情によって一度のみ中止となったため。かつ、その旅行が年度末に予定されていたため。
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次年度使用額の使用計画 |
資料収集旅行を、一回分増やして、前年度にかなわなかった文献収集を行うために使用する予定である。
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