研究課題/領域番号 |
16K02573
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研究機関 | 東京医科大学 |
研究代表者 |
城 眞一 東京医科大学, その他部局等, 名誉教授 (60424602)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | リルケ / オカルティズム / 自動筆記 |
研究実績の概要 |
本年度は、前年度に収集された資料をもとに、リルケの詩論と同時代のオカルティズムの接点を探求する作業を開始した。そのさい重要なことは、リルケの詩論を形成し、その詩業を展開せしめる原動力となっている根本的な発想あるいは論理を絶えず問うことであった。 そして見いだされたのが、リルケの詩論における自動筆記のモチーフであった。すでに先行研究のいくつかは、この問題を扱っているが、自動筆記をオカルティズム受容と絡めて詩論形成の根本要素として論じる研究はまれである。当初から、研究代表者は、この詩人における自動筆記の理論が詩作の成否を大きく左右すると推察していたが、その詩論をオカルティズムと重ね合わせたとき、自動筆記のごく初期の体験的事実が浮かび上がってきた。この場合は詩作以前の「読書」と「対話」いう形ではあったが。すなわち、19世紀末のミュンヘンで活躍したオカルティズム研究家、カール・デュ・プレルの著作『オカルト学による魂の発見』(Carl du Prel: Die Entdeckung der Seele durch die Geheimwissenschaften.Leipzig 1894.)第7章の『自動筆記』(初出は1891年の「スフィンクス」誌)をリルケが読んでいたであろうこと、かつ、この思想家と会見を果たしたとき(1897年)、リルケが自動筆記を話題にしたであろうこと、これ等を綿密に検証した。さらにこうした推察を出発点として、自動筆記の詩論の生涯に及ぶ展開の軌跡を素描した。 本年度は以上のように、この詩人の生涯のライトモチーフ「自動筆記」が導入されてゆくごく初期の状況を解明できた。以上の研究成果を、後期の詩業への展望をも添えて、もうひとつの科研プロジェクト「プラハとダブリン、亡霊とメディアの言説空間―複数の文化をつなぐ≪翻訳≫の諸相」の第3回研究会合において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度後半から2017年度6月まで研究生活上の難題を抱えていたが、その後は難局を乗り越えることができたので、研究のペースが加速された。とくに資料繙読の過程で、重要な仮説が期待したとおりに次々と資料によって裏付けられた。あるいは、裏付けを待つ仮説の多くが、事実性を獲得し始めた。マールバハ文学アルヒーフへの資料収集の旅は今なお実現を見ないが、そのためにかえって落ち着いて手持ちの資料の整理と分析が進展した。 以上の状況から、結果的に、研究は予定通りの進展を見たといえる。ただし研究成果の本格的な発表は、一,二年遅れる見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の初頭に発見された、リルケの詩論とカール・デュ・プレルの自動筆記論の関係性を軸に、リルケの全詩業を読み解く方法を提起したい。かつ、そのこと自体の思想史的意義に迫りたい。 この作業は、今まで以上に、科研研究会「プラハとダブリン、亡霊とメディアの言説空間―複数の文化をつなぐ≪翻訳≫の諸相」との連携によって進める予定である。リルケの詩業の全体は、ある種の「翻訳」であったこと、― それも、死者と生者を、彼岸と此岸を、永遠と現在を、見えざるものと見えるものを、それぞれつなぐ営みであったことを立証する方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
出張回数が減ったことにより、旅費の使用額が減少したため、かつ、人件費と謝金が不要であったため、次年度使用額が発生した。 次年度において、学会出席と資料収集のための出張回数を増やすとともに、規則上許される範囲内で、図書購入を増やす予定である。
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