研究課題/領域番号 |
16K02575
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
相原 剣 明治大学, 法学部, 兼任講師 (30726469)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | シュラーガー / 同性愛文化 / ポップ・カルチャー / 娯楽音楽 / 強制収容所 / 抒情詩 / 娯楽映画 / レコード産業 |
研究実績の概要 |
全体的に申請時より深化した研究課題を文献学的な精緻さをもって遂行していく為、広範な調査と整理・分析を進めていった。特に、ヴァイマル期及びナチ時代の同性愛シーン・関連状況について、ベルリンのノレンドルフ地区、パンコウ地区など解放運動の拠点の実態分析、当時の旅行ガイドの精査を、広範な資料を基に進めていった。焦点化した作詞家ブルーノ・バルツについては、ベルリンのブルーノ・バルツ・アーカイブとの連携を保ち乍ら、その作品・思想・人脈等に関して更なる掘り下げを行った。マグヌス・ヒルシュフェルトやフリードリッヒ・ラッヅワイト、アドルフ・ブラント等の個人史にとどまらず、都市文化としてベルリンの同性愛解放運動全体を俯瞰的に捉え直すべく研究を遂行した。ラッズワイトによって1924年に発行された世界初のレズビアン雑誌Die Freundinに関して、ベルリンのゲイ博物館の研究員との意見交換を行い乍ら、ヴァルドフ等の女性同性愛シュラーガー分析を行った。 同性愛文化研究叢書であるBibliothek rosa Winkelの成果を土台としながら、マイノリティの領域からメジャーな領域へと移行する文化動態のなかに現れるホモフォビア(同性愛嫌悪)の表象に焦点をあてた文献調査も広範に行い、当時の同性愛に関する禁忌の実態とポップ・カルチャーへの表出をデータ化し整理していく作業を進めた。 また、収容所で作成された歌集に着目し、そこでの改作・替え歌を分析し、強制収容所に於ける娯楽音楽の有り様を明らかにする作業を行った。収容所環境下でのポップ・カルチャーの実態を解き明かす作業に関しては、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)との相互的な協力関係を基に調査・研究を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね順調に進んでいる。研究の進行に伴い、各種研究機関及び当事者との協力体制の構築が当初の予定を越える形で順調に進み、調査・研究環境が充実したことから予算等の効率的な活用が可能となった。よって一年間の研究期間延長をしたうえで、より広範でより深化させた成果を獲得すべく研究を遂行している。 同性愛解放運動とポップ・カルチャーとしてのシュラーガーの結節点としてブルーノ・バルツが焦点化したことにより、ベルリンの政治史・思想史をも包括した形での分析が必要となっている。特に、「ドゥルヒハルテ・シュラーガー(Durchhalteschlager)」と非難される娯楽音楽の分析は大幅に進展した。更に政治史や人物史の掘り下げの一方で、都市文化としての同性愛文化研究をより広範に進めていく必要が生じている。この点に関してもベルリンのゲイ博物館と連携し分析を進めることが出来た。 一点、同時代のシュラーガーと抒情詩の比較研究に関しては先送りした部分も一部あるが、シュラーガーの歌詞の持つポピュラリティと古典的型式・韻律との連続性・非連続性を腑分けする作業は継続的に行っており、アルフレート・グリューネヴァルト、クルト・ヒラーを中心に作品研究を遂行した。ヤーコプゾーンによって創刊されたベルリンのDie Weltbuehneや、様々な体制下で変遷を重ねたウィーンのDie Musketeといった雑誌メディアに掲載された同性愛をモチーフとする抒情詩を、同時期のシュラーガーや実際の同性愛シーンとの関連のなかで分析する作業に関しては、特にウィーンのQWIENと連携しながら分析を進めた。 当該研究課題に関しては未踏分野が多い為、基本的なデータベース構築を現地研究機関と共同で進めている。
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今後の研究の推進方策 |
ベルリンのゲイ博物館、ブルーノ・バルツ・アーカイブ、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)等、現地研究拠点との連携を保ち、相互的な協力関係を更に推進していく。 ベルリンのノレンドルフ地区、パンコウ地区など解放運動の拠点、NS文書センターミュンヘンでの調査及び成果の共有も行う予定である。都市文化としての同性愛文化研究を更に深化させ、ポップ・カルチャーとしての同性愛文化の基点を明らかにする作業を続ける。スーザン・ソンタグが定義した「キャンプ」感覚の源流を、シュラーガーや当時の旅行ガイド等の分析を通して明らかにしていく。 また、同時代のシュラーガーと抒情詩の比較研究に関しては、これまで行ってきたオットー・ヴァイニンガーによる性差別意識、アドルフ・ロースの建築理念、テオドール・レッシングに見られるユダヤ人の自己憎悪意識などの分析を踏まえ、ポップ・カルチャー研究と抒情詩研究を架橋する構造分析を行いたい。ウィーン労働者組合等で日刊新聞の保存記録を長年担当したエッカルト・フリューによって整理されたアルフレート・グリューネヴァルト関連資料の集中的な分析も行う。更にクルト・ヒラーの同性愛詩が掲載されたスイスの同性愛雑誌Der Kreisの調査・分析、及びヒラーの同性愛選詩集について作品分析を行う予定で 今年度に関しては、より広範になった研究対象の整理・分析をはじめ各研究機関との精緻な共同作業が中心となったが、その成果は次年度に順次発表をしていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ベルリンのゲイ博物館、ブルーノ・バルツ・アーカイブ、ウィーンのQWIEN(ゲイ/レズビアン文化歴史研究センター)とのネットワークを介した共同作業がより拡充しているため、より多くの成果を得るために、研究計画の一年間の延長とそれに伴う予算の積極的な先送りを行った。 当該課題に関しては現地各研究機関に於いても未整理の資料が多く、申請者の持つポピュラー音楽に関する知見の提供を含め、新しい研究領域の創出と継続的な研究遂行を可能とする為、広範な基礎研究にも力を注ぎたい。現在ネットワークを介した共同作業体制が有機的に機能しており、更なる拡充を予定している。 なお、海外調査に関しては、未踏部分の基礎研究・ネットワークを介した共同作業を行いつつ、現地調査の収穫をより大きいものにすべく万全の体制を整える。NS文書センターミュンヘン及び、ミュンヘン近郊の強制収容所の調査も行う予定である。
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