研究課題/領域番号 |
16K02578
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
檜枝 陽一郎 立命館大学, 文学部, 教授 (40218681)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 印刷術 / アントウェルペン / ヘラールト・レーウ / ライナールト物語 |
研究実績の概要 |
狐のライナールトを主人公とする一連の動物譚が、盛んに印刷されて出版されたのは15世紀後半であった。当時発明されたばかりの、しかし瞬く間にヨーロッパ全土に普及した印刷術を土台にして、多くの印刷業者が各地で職業としての印刷業を確立し、自らが印刷して刊行する本の題材をあらゆる分野から集めていた時代である。当時の低地諸州を代表する印刷業者であったヘラールト・レーウも、散文版と韻文版のライナールト物語を印刷していた。その中でアントウェルペンで1487年に印行された韻文版は、その後1564年に刊行された『狐ライナールト』に影響を与えると同時に、低地ドイツ語版の『狐ラインケ』の直接の典拠となった点で重要である。今期では、断片しか残っていない韻文版を中心に検討を加えた。「ケンブリッジ断片」と称されるこの韻文版の検討によって、ヘラールト・レーウが当時の国際商業都市であったアントウェルペンの言語に依拠しながらも、潜在的な読者層として想定していたのが、フランス・フランドルの宮廷の貴族層であることが判明した。より多くの読者に本を販売するため、言語はだれにとっても理解できるもの、しかし読者の関心を惹くためには、宮廷文学の伝統に依拠せざるを得ないという印刷業者ヘラールト・レーウのディレンマを明らかにした。本邦ではこれまで誰も取り上げなかったテーマであり、これを発信していくことは西洋史研究および出版文化の研究にとって非常に重要だと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調べれば調べるほど興味深い事実が出てきて、それらすべてを俎上に載せて検討しているせいで、やや時間をとられているものの、進捗状況は概ね順調である。今後は検討すべきテーマの取捨選択をより緻密に行い、テーマを厳選して研究したい。
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今後の研究の推進方策 |
テーマに関する資料はほぼ揃ったと思われるので、テーマを絞りながら研究を進めたい。具体的には、狐を主人公とするライナールト物語の展開として、1564年の民衆本ライナールト物語に至るまでの経緯、その性格、カトリック対プロテスタントという対立状況の中で物語が果たした役割、フォントの選択などについて研究する。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、関係資料の購入およびその整理に関わる人件費あるいは謝金に予算が必要である。インターネット上に公開されている資料についても、プリントアウトの作業および紙媒体の入手に費用がかかり、そのための予算執行が必要であるため。
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