研究課題/領域番号 |
16K02581
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
谷口 洋 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (40278437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国文学 |
研究実績の概要 |
漢代を、神話的世界の崩壊を承けた「物語の時代」と位置づける本研究の視点を示すにあたって、第一年度にあたる本年度は、これまで従事してきた賦の文学について先行的に見解を発表した。 まず「2016賦学国際研討会」(6月、台湾)において、「早期辞賦与山川祭祀」の題目で口頭発表を行った。宋玉・枚乗・司馬相如らの賦に、聖地の賛頌・儀礼の挙行・神霊の出現という共通の筋書きが見られること、語を並べ尽くす鋪陳とよばれる表現法について、供物を列挙する名詞的なもの、対象の形状を述べ立てる形容詞的なもの、儀礼の次第を縷々述べる動詞的なものがあることを示し、これらの賦が起源的には山川祭祀とかかわりつつ、宗教性を希薄化させて帝王賛歌へと変容してゆくことを論じた。 次いで「第12届国際辞賦学学術研討会」(10月、中国)では、より広く賦の文学の全体を視野に入れた考察を「祭天・祭地・祭物」と題して口頭発表した。賦には楚辞を起源とするいわゆる騒体、漢代に流行した長編の体、四言を主とする短編の体の3つのスタイルを認め得るが、それらはそれぞれ、天の信仰と異界への志向を示す「祭天の文学」、山川祭祀から地上の権力賛美に転じた「祭地の文学」、物の霊性に支えられた「祭物の文学」と位置づけられるのである。 賦の枠を超えたジャンル横断的な考察については、「第3届宋玉国際学術研討会」(9月、中国)において口頭発表「試論西漢士人的宋玉情結」を行った。早期の賦の作家でもある宋玉は、前漢においては落ちぶれた弁士として形象化されており、そこには統一帝国のもとで自由な言論を封じられた当時の士の心情が投影されている。こうした「宋玉コンプレックス」が楚辞文学や説話などに広く見られ、とりわけ武帝期の東方朔が第二の宋玉ともいえる形象をもつことを論じた。 以上のうち「2016賦学国際研討会」における発表内容は、論文として査読を経て既に公刊された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた3つの国際学会における発表を順調に終了し、うち1つは論文としての公刊にこぎ着けることができた。 『漢書』礼楽志の訳注作成については、研究協力者の都合により途中でいったん休止しているが、補助期間中には問題なく完成できる見込である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまで従事してきた辞賦に関する研究を先行して推進することによって、早期に成果を挙げることができたが、今後は、全体計画に示した広範な物語世界をジャンル横断的に研究するため、特に『史記』に重点をおく。当面の目標として、平成29年11月に学会発表を予定している。 『漢書』訳注についても、研究協力者の態勢が整い次第、作業を再開する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について、パーソナルコンピュータ等の機器購入を予定していたが、性能・価格等を慎重に検討した結果、今年度の購入を見送り、次年度以降に再度検討することとした。また謝金について、研究協力者と共同で訳注を作成し、原稿作成にかかる謝金を支払う予定であったが、研究協力者の都合により作業をしばらく休止した。これらの要因により、物品費と謝金の執行が当初計画を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
引き続き、機器購入について慎重に検討し、助成金の効果的な使用を図る。また研究協力者の態勢が整い次第、訳注作成作業を再開し、謝金を支給する。図書購入費や学会発表旅費は、次年度も今年度同様に計画的に支出する。
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