研究課題/領域番号 |
16K02583
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
大野 圭介 富山大学, 人文学部, 教授 (30293278)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 中国文学 / 詩経 / 毛詩 / 古注 / 楚辞 / 王逸 / エキゾチシズム / 中国神話 |
研究実績の概要 |
本年度は前年に引き続き大型叢書『詩経集校集注集評』を初めとする先秦文学関係図書の購入等の研究環境整備に努め、先秦期の諸文献に見える神話伝説における地域性の分析作業を行うとともに、本研究の二つめの柱である、『詩経』毛伝・鄭箋等の漢代諸注釈を精査し、『楚辞』諸作品のイメージがどう影響しているかを解明する作業に取りかかった。 この過程において、2017年楚辞国際学術研討会曁中国屈原学会第17届年会で「王逸《九思》考」と題する口頭発表を行った。これは後漢初期の王逸『楚辞章句』の末尾に収められる王逸自身の楚辞体作品「九思」を分析したものであり、王逸が「九思」の中に『詩経』特有の表現をも盛り込むことによって、辞賦に押されて衰退しつつあった楚辞文芸を経書並みの地位に高めて復興しようとしていたことを明らかにした。 また桃の会2017年9月例会において「舜の「南風歌」をめぐって」と題する口頭発表を行った。これは直接『詩経』や『楚辞』を論じたものではないが、舜の作と伝えられてきた「南風歌」と同様の形式である「滄浪歌」が、『楚辞章句』で独立した作品として収められている「漁父」に含まれることから、楚辞文芸の復興を目指していた王逸が楚北民謡の「滄浪歌」を含む形での民間伝承を利用して、「滄浪歌」の代わりに「懐沙」を含む『史記』屈原列伝のように改変された屈原物語を本来の形に戻そうとした可能性を指摘している。本発表は先秦の『尸子』以来、三国魏の王粛の編とされてきた『孔子家語』に至るまで文献に歌詞が見えない「南風歌」が楚北地域に脈々と伝承されていた可能性を論ずるものでもあり、埋もれた地域神話が文学の伝承に影響を及ぼしていることを示唆する。 なお論文「『山海経』から『白沢図』へ」においても、地理を知悉する神としての禹の伝説が、漢代の淮南から呉越のかけての地域で根強く信仰されていたことに言及している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度に続き先秦期の諸文献に見える神話伝説における地域性の分析作業が難航しており、『詩経』古注の分析作業を先行させたため。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、平成29年度から引き続き『詩経』毛伝・鄭箋等の漢代諸注釈を精査し、『楚辞』諸作品のイメージがどう影響しているかを解明する作業を行うとともに、遅れている先秦文献の神話伝説の地域と描写・叙述の方法との関連を調査する作業を進める。下半期からは、上半期までの研究成果を踏まえながら、本研究の三つめの柱である、両漢期の詩文や辞賦における「南方」イメージを精査することにより、漢代における「南方」イメージがどう展開し、その後の文学にどう影響したかを探る作業に取りかかる。 平成31年度上半期は前年度からの研究をさらに発展させ、両漢期の詩文や辞賦における「南方」イメージについての分析を行う。同下半期には、研究の最終的な取りまとめに入る。先秦期の神話伝説における地域性と「南方エキゾチシズム」の確立、『詩経』漢代諸 注釈への『楚辞』の影響、及び両漢期の詩文や辞賦における「南方」イメージの展開について、研究成果を綜合し、報告書を取りまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
大型叢書『詩経要籍集成』を始めとする図書購入費が当初見込みを大幅に下回ったため
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