研究課題/領域番号 |
16K02585
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平田 昌司 京都大学, 文学研究科, 教授 (50150321)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 文学革命 / 中国文学 / 近代中国 / 胡適 / 任鴻雋 / 中国語 |
研究実績の概要 |
1917年に始まったとされている中国の「文学革命」は、通常、中国文学史のなかでだけ説明されることが多い。本研究の目的は、この文学革命が1910年代の欧米の文化的状況に直結した動きであり、中国一国の枠組で扱われるべきではないことを、在米中国人留学生の残した一次資料(書簡・日記等)を利用して明らかにすることにある。今年度においては、具体的に以下の研究に取り組んだ。 (1)任鴻雋の胡適あて書簡の翻字・日本語訳注作成:文学革命の中心人物である胡適は、アメリカ留学期に友人から受け取った大量の書簡を後世に伝え、現在『胡適遺稿及秘蔵書信』として影印出版されている。そのうち文学革命をめぐって胡適と活発な意見交換を行った任鴻雋の胡適あて書簡は、その史料的重要性にも関わらず、行草体で書かれているためか、ほとんど利用されていない。この任鴻雋書簡について、研究協力者とともに翻字・日本語訳注作成に取り組み、1910~1917年の書簡についてほぼ作業を終えた。 (2)胡適が文学革命を着想するまでに、同時代アメリカからいかなる文化的影響を受けたかを検討するため、『ニューヨーク・タイムズ』電子版を利用して、1910~1910年のニューヨークなどアメリカ東海岸における文化的動向を伝える関連記事の調査を行い、その成果を日本中国学会第68回大会で口頭発表した。 (3)文学革命の世界史的文脈での位置づけを、思想史・文学史・言語史の各側面から再検討するため、楊貞德氏(中央研究院中国文哲研究所)、陸胤氏(中国・北京大学哲学系)、袁一丹氏(中国・首都師範大学中文系)を招聘して2016年8月にワークショップを開催し、研究発表・意見交換をすすめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)任鴻雋の胡適あて書簡のうち、文学革命に直接関連する1910~1917年の部分については、全ての翻字・訳注作成初稿作成を終えた。注のさらなる補正を必要とする箇所は残っているが、初稿は全体を電子化してまとめており、本研究のひとつの柱を完成できる目途がたっている。 (2)アメリカにおける第1次世界大戦期の知的動向に関して、『ニューヨークタイムズ』を用いた調査結果をすでに得ている。 (3)国際的な連携のもとでの共同研究としては、楊貞德氏・陸胤氏・袁一丹氏を中心とするネットワークを形成し、継続して課題の検討をすすめる体制を組むことができている。 (4)19-20世紀中国における言語研究で用いられた重要な術語・概念について、別に基礎的調査の結果を28年度末までに得られており、本研究においても継続的に深化させていくことが可能になっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)任鴻雋書簡訳注は、翻字結果の全体にもとづいた難読字の再検討、訳語の確定、注釈の充実などの作業に引き続いて取り組み、最終的な成果発表への道筋をつける。 (2)継続して同時代の新聞・雑誌等の資料調査に取り組む。その際、28年度から京都大学で利用が可能になった電子資料「中国近代報刊庫 : 申報、要刊編」も活用し、より広い範囲の文献を網羅的に調査することが可能になっている。 (3)19-20世紀中国における文学・言語研究に関する研究成果を、国内外の学会・研究集会において公表する。 (4)28年度に構築した、文学革命を思想史・文学史から総合的に検討するための国際ネットワークを引き続き発展させ、研究集会を開催する。 (5)19-20世紀中国における言語研究で用いられた重要な術語・概念について、研究協力者とともに調査研究の範囲を拡大し、その成果の共有に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
科研費を申請した段階では、所属先で研究科長に選出されることを予見できていなかった。研究科長に就任して以後、大学運営業務の負担が大きく、予定していた海外出張や研究集会の開催が困難になったため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成30年度に海外研究者との交流を積極的に行うほか、研究協力者の体制を強化することで、経費を有効に使用する計画である。
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