研究課題/領域番号 |
16K02592
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
小松 謙 京都府立大学, 文学部, 教授 (00195843)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 水滸伝 / 白話 / 版本 / 校勘 / 表記 / 出版 / 金聖歎 |
研究実績の概要 |
前年度までに行った『水滸伝』諸版本の全文校勘作業(第七十一回まで)において、重要な版本である芥子園本が欠落していたことを発見したため、新たに同版本についても全文の校勘を実施し、前年度に発表した業績の内容に修正を加えた。その上で、ほぼ全容が明らかになった諸版本の関係を踏まえて、『水滸伝』版本の関係を全面的に踏まえた上でその文学的・語学的な意義を明らかにする研究を推進し、文学面については論文「『水滸伝』本文の研究ー文学的側面について―」を『京都府立大学学術報告 人文』69号(2017年12月)に、語学面については「『水滸伝』本文の研究―「表記」について―」を『和漢語文研究』第15号(2017年11月)に発表した。前者は、前年度の研究によって明らかになった『水滸伝』諸版本の系統を踏まえ、そこに前述の芥子園本に関する修正を加えた上で、継承関係にある版本間の本文の相違とその生じた原因を明らかにすることにより、白話文学が口頭芸能の影響を脱し、「白話文」という文体を完成させ、読んで楽しむ新たな文学としての白話小説が誕生する過程を解明したものである。これは、前年度に発表した「金聖歎本『水滸伝』考」(『和漢語文研究』第14号)で論じた近代的「読書」成立への過程を具体的に裏付けるものである。後者は、元来発音のみあって文字のなかった口頭言語の写しであるがゆえに、固定した表記を持たなかった白話語彙が、様々な摸索を経て安定した表記を確定する過程を『水滸伝』諸版本の異同を通して明らかにしたもので、白話文が書記言語として確立した過程を具体的に示すのみならず、中国語における「表記」の意味を解明する上でも重要な意味を持つ業績である。 以上の論文を執筆・発表する過程で、新資料として石渠閣本『水滸伝』本文を入手することができため、同版本について校勘を進め、次年度に成果を発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、三年目が終了した段階で『水滸伝』本文の変化とその意義を明らかにするとしていたが、二年目の段階で、第七十一回までに限定されるものとはいえ、その全体像をほぼ解明することができた。当初の計画にはなかった資料をも加え、現段階で最も完備した校勘記を作成し、それをもとに全面的な研究を実行したという点で、二年目の成果は当初の計画を上回るものといってよい。 更に、計画策定当時においては調査が可能とは考えられなかった新資料が出現したことにより、従来知られていた諸版本の位置づけの全面的見直しという、当初の計画にはなかった新たな展開へと作業を進行させており、これは当初の計画を大きく超えるものと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
『水滸伝』石渠閣本は、かつて『水滸伝』の最も古い版本として重要な意義を持つ郭武定本と同内容のものと見なされたこともある一方で、全く無価値な版本であると否定されることもある問題のテキストであった。この版本は、従来中国北京の中国国家図書館にあるのみで、現地における限定的調査以外は不可能であるため、完全な本文調査は不可能と考えられてきたが、昨年秋、日本にその大部分が存在することが明らかになり、所蔵者の好意により、全文の画像を入手して、全文の校勘をすることが可能になった。他の版本と同様、第七十一回までの完全な校勘を行うべく、現在作業を進行中であるが、その結果、従来考えられてきた『水滸伝』版本の常識が覆る可能性が生じつつある。当初の予定では、第七十二回以降の校勘を進める予定であったが、まず現在進行中の作業を進め、石渠閣本の位置づけを明確にするとともに、一年目・二年目の業績をも再検討し、『水滸伝』版本の関係について、根本的な見直しを進めて、その成果を論文にまとめる。更に、時間が許せば第七十二回以降の校勘をも進めるとともに、郭武定本の実態解明と位置づけを試み、そこから現行の『水滸伝』がどのようにして成立したかについても考察を進める。 あわせて、『水滸伝』成立の背景となった社会的問題についても考察を進め、その成果を日本中国学会におけるシンポジウムで発表する予定である。 以上の成果を踏まえて、今回の研究課題の成果を書籍の形で刊行することを目指すとともに、完全な本文批判を踏まえ、詳細な注釈を附した初めての『水滸伝』翻訳の作成に着手する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品の購入を見直した結果、端数の次年度使用額が発生した。来年度はこの未使用額とあわせて、計画通り発注していく予定である。
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