研究課題/領域番号 |
16K02593
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
柳川 順子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (60210291)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 建安文壇 / 詠史詩 / 五言詩 / 宴席 / 歴史故事 / 語り物文芸 / 画像石 |
研究実績の概要 |
後漢末の建安文壇で競作された五言詩に、詠史詩と総称されるジャンルがある。漢代に遡ることができるこのジャンルは、そもそもどのような経緯で誕生したのか。建安文壇に至って、それはどのような文学的展開を見せたのか。これらの課題について、建安文学と漢代宴席文芸との連続性に着目する観点から、次のような研究を行った。 まず、五言詠史詩の最も早期の作品群とされる、後漢初めの班固の詠史詩について、それが詠ずる歴史故事を書きとめた文献を探索し、その故事を記す文献の文体的特徴の洗いだしを行った。また、そうした故事が享受される場に関しては、関連する他の分野、特に『列女伝』の先行研究にも目配りしながら調査考察を重ねた。その結果、詠史詩というジャンルは、五言詩という詩型と、歴史故事を題材とする語り物文芸とが、宴席という場を介して出会い、異種混淆のうちに誕生したものであるとの推定に至った。 次に、建安の詠史詩の中に、上述の推定を裏付ける事例(荊軻を詠じた詠史詩の競作)があることを指摘し、建安文学と漢代宴席文芸との連続性を確認する一方、そこから外れる内容の作品、すなわち漢代の宴席で語られた形跡のない歴史故事(三良の殉死)を取り上げる詠史詩があることに目を留めた。その上で、この故事を詠じた詩の中に、漢代の宴席で盛行した五言詩歌を明らかに踏まえる表現が認められること、また、建安文壇を育んだ曹魏政権が主宰する宴席において、この故事を話題とする、あるいはそれに類する緊迫した内容の談論が行われていたことを指摘し、これらの調査結果を論拠として、この新しいテーマの詠史詩もまた、建安文壇という社交的空間の中で競作されたものであろうことを明らかにした。あわせて、建安の詠史詩が、従前の詠史詩には認められなかった屈託を抱えていることの文学史的意義についても論じた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度に行った詠史詩の成立経緯に関する研究の成果は、当初平成29年度に公表する予定であったところ、28年度に一応の結論に到達したため、一年繰り上げて論文にまとめた。また、この考察の過程においては、計画段階では予測していなかった新たな見解を得ることができた。この点では、当初の計画以上に進展していると言える。 他方、詠史詩以外のジャンルの建安文学について、歴史故事を題材とする漢代宴席文芸との関連性を探るという方面ではあまり大きな進捗を見ていない。また、ホームページの開設については未だ着手に至っていない。 以上を総合して、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究内容を公開するホームページは、平成29年度中の開設を目指す。先達にアドバイスを求めつつ、公開する内容の構成が決まった段階で、技術的な部分は外部に委託する。 歴史故事を題材とする漢代宴席文芸と建安文学との連続性については、調査の対象ジャンルを五言詩以外に拡大する。本年度は、楽府詩(俗楽歌辞)ジャンルについての精査を終える予定である。この調査に当たっては、建安に前後する時代、すなわち漢代及び魏晋時代にまで対象を拡大する。漢代や建安の楽府詩は、魏王朝や西晋王朝で宮廷歌曲として演奏された実態があるし、魏晋にかけて同曲に新辞を作る後継者も出たからである。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の予算執行があまり進まなかった理由の第一は、研究内容を公開するホームページ開設が実現できなかったため、第二には、旅費を伴う資料調査等の実施が、時間的にきわめて困難であったためである。いずれも、多発する学内の業務と、急遽発生した学外の仕事(『白氏文集』の訳注)に、多くの時間と労力を割かなければならなかったことによる。特に、学外の仕事については、本研究の申請当時、全く予測し得ない状況にあった。やむを得ないとするしかない。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、遅れていたホームページの開設と、中国で開催される学会での研究発表を計画している。繰越金を含めた研究予算は、このために使用する予定である。
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