研究課題/領域番号 |
16K02596
|
研究機関 | 九州共立大学 |
研究代表者 |
黄 冬柏 九州共立大学, 経済学部, 教授 (70315026)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 西廂記 / 元雑劇 / 明刊本 / 書誌学 / 漢籍 / 戯曲 / 建陽書林 / 熊龍峰 |
研究実績の概要 |
本年度は、国立公文書館内閣文庫所蔵の『重刻元本題評音釈西廂記』について、以下の調査研究を行った。 1、内閣文庫に所蔵されている明万暦20年(1592)に熊龍峯刊行『重刻元本題評音釈西廂記』の実見調査で原本により版匡のサイズ及び本文・題評・挿絵などを確認し、他の版本と異同がある箇所に写真を撮った。また、上海図書館古籍閲覧室で万暦8年(1580)徐士範刊行の『重刻元本題評音釈西廂記』を確認した上で、全本を複写した。さらに、同じ書名『重刻元本題評音釈西廂記』である万暦29年(1601)刊の劉龍田本(北京図書館蔵、『古本戯曲叢刊初集』に所収)との比較考察を通して、三種刊本の版式や表現の異同と、内閣文庫蔵本の特徴及び『西廂記』流伝に果たした役割について解明した。 2、内閣文庫所蔵の『重刻元本題評音釈西廂記』は建陽書林熊龍峯の刊行したものと推定される。明代の三大刊行中心の中で、建陽の書林は全国一の売上を誇っており、特に明末にその最盛期を迎え、刊行から販売まで盛んに行っていた。平成29年3月に福建省建陽に赴いて、当地の資料館や図書館に所蔵されている地方誌や類書から関連資料を閲覧し、建陽博物館余館長、書坊文化センター李所長などの関係者の聞き取り調査を行い、『重刻元本題評音釈西廂記』をはじめとする戯曲や小説の刊行と流伝の実態、そして幾つかの版本が中国本土で失われていった原因を明らかにした。また、『書坊郷誌』『建陽刻書史』などの関連資料を手に入れることができた。 以上の調査研究の成果として、「内閣文庫蔵『重刻元本題評音釈西廂記』考」と題して、平成29年3月に日九州大学で研究発表を行い、論文をまとめて投稿した。また、単著『東瀛論西廂――「西廂記」流変叢考』が中国の商務印書館から2017年に上梓される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は「研究計画」の通りに実見調査と資料収集が順調に進んでおり、研究発表・学術論文及び著書により、研究対象である内閣文庫所蔵の『重刻元本題評音釈西廂記』について、詳密に考証することができた。
|
今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、成簣堂文庫所蔵の『新刻考正古本大字出像釈義北西廂』について調査研究を行う。 1、成簣堂文庫に所蔵されている万暦7年(1579)に金陵胡氏少山堂刊の『新刻考正古本大字出像釈義北西廂』は、現存する明刊本の中で『新刊奇妙全相注釈西廂記』(弘治本)に次いで二番に古いものであり、しかも孤本であるから、複写や翻刻を厳しく禁止されている。それゆえ、この刊本は『お茶の水図書館新修成簣堂文庫善本書目』に紹介されたものの、未だ版式と内容の特徴を解明されていない。平成29年度中、成簣堂文庫にて原本を実見し、その版式と内容及び原文に附する評点などを分析し、関連刊本との比較考察を通してその特徴を明らかにする。また、成簣堂文庫の旧蔵者である徳富蘇峰は漢籍の収集を精力的に行っていたことについても、その関連文献を精査することで、近世日本における中国古典の受容という視点から、当時の漢籍入手の経緯や価格及び受容の実態を辿っていく。 2、成簣堂文庫に所蔵されている『新刻考正古本大字出像釈義北西廂』は、金陵(南京)胡少山の少山堂刊に刊行されたものである。明代の三大刊行中心の一つである金陵は、明末に商業出版の「坊刻」が盛んに行われていた。金陵刊行の書籍が、品質の高さによって好評を受けており、海域を経て日本にも到来したと思われる。そこで、この成簣堂文庫蔵本の刊行地であった南京に赴いて、南京図書館に所蔵される地方誌などから、その当時の出版状況と胡氏の刊行活動に関する資料を調査蒐集し、『新刻考正古本大字出像釈義北西廂』の刊行と流伝の実態、そして中国本土で失われていった原因を究明する。 3、国内外の学会や学術誌等において、上記の成果を発表する。
|