本年度は、内閣文庫所蔵の『重校北西廂記』について、以下の調査研究を行った。 1、内閣文庫に所蔵されている明・万暦26年(1589)に陳邦泰刊行の『重校北西廂記』は、『増訂明刊元雑劇西廂記目録』(傳田章、汲古書院、1979年)と「日本所蔵『西廂記』版本知見録」(黄仕忠『戯曲文献研究叢稿』所収、国家出版社、2006年)に書名・版式・行数などが簡略に紹介されたもの、その内容と形式の特徴が究明されていない。本研究は、黄仕忠等編『日本所蔵稀見中国戯曲文献叢刊』(広西師範大学出版社、2006年)第一輯所収『重校琵琶記附重校北西廂記』の影印本を参照し、平成31年2月に内閣文庫にて原本を実見し、その版式と内容などを確認しながら、『新刊奇妙全相註釈西廂記』(弘治本)との比較考察を通してその特徴を明らかにした。 2、内閣文庫に所蔵されている『重校北西廂記』は、秣陵(即ち金陵、今南京)陳邦泰の継志斎に刊行されたものである。明代の三大刊行中心の一つである金陵は、明末に商業出版の「坊刻」が盛んに行われていた。金陵刊行の書籍が、品質の高さによって好評を受けており、海域を経て日本にも到来したと思われる。平成30年3月の現地(南京)調査で入手した資料に基づいて、刊行者であった陳邦泰の刊行活動も併せて考察した。 以上の調査研究の成果として、「内閣文庫蔵『重校北西廂記』について」と題して、研究発表を行い、論文をまとめて投稿する予定である。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、内閣文庫所蔵の『重刻元本題評音釈西廂記』と成簣堂文庫所蔵の『新刻考正古本大字出像釈義北西廂』について、それぞれの研究発表を行ったあと、論文をまとめて投稿した。投稿した論文は国内と中国の学術誌に掲載した。また、単著『東瀛論西廂――「西廂記」流変叢考』が中国の商務印書館から2018年4月に上梓された。
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