本研究は日本統治期台湾の山地原住民居住地「蕃地」を題材に描いた物語の生成に、「神話」「ロマンス」「文明と野蛮」という要素が密接に関係していることに注目し、その生成メカニズムを解明したものである。本研究成果は『東亞視域中的作家流徙與文學創生 國際學術工作坊』(武漢大学)をはじめ三つの国際学術研究会にて詳しく発表した。中村地平、真杉静枝らの戦前の「蕃地」テクストに顕著なロマンスのプロットが、戦後の坂口れい子のテクストにも意識的に取り込まれていることを解明し、また坂口、津島祐子の「蕃地」物語の生成過程には霧社事件の「暴力の記憶」、特に暴力と女性という歴史の暗部が炙り出されていることを明らかにした。
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