研究実績の概要 |
本研究は、明治三年に福井藩のお雇い外国人として来日し、帰国後は牧師をしながら日本関係の著述を多く残したアメリカ人ウィリアム・E・グリフィス(William Elliot Griffis, 1843-1928)の作品をひもとき、意味を問い、その日本体験の再評価をめざしたものである。これまでグリフィスについては伝記的研究が主だったといえるが、本研究では代表作『皇国』以外の、これまで取り上げられることの少なかった民話集や、東京時代の日記、手紙、メモ類などの分析と解釈に重点をおくことにした。 初年度は、特にグリフィスの創作民話を、大きな比較文化論の枠組みで捉えつつ、再話作品として読みこみ、そこに投影されたグリフィスの日本観の特徴を明らかにした。民話の分析に関しては、民俗学の研究成果、古代中国の伝承との比較研究の成果をも取り入れることで視野が拡大され、地元福井の伝承や民間信仰などについても調査を行った。 二年目は、さらにグリフィスの宗教観、なかでも神社の描写に光をあて、チェンバレンやラフカディオ・ハーン、イザべラ・バードなどとの比較分析を通して再評価し、その根底に、ハーン同様、ウェールズ出身の先祖由来のケルト的感性を見出すことができた。 また、アメリカのラトガース大学にあるグリフィス・コレクション所蔵の未刊行資料をカメラに収め、晩年に奉職したイサカの教会の場所を突き止めることができた。三年目にはグリフィスの宗教論の分析の周辺研究として、前年発表の明治初期外国人の神社観と神道解釈を日英両語の書物の形にまとめた。延長をしたこの最終年度でには、ラトガーズ大学図書館書庫で収集・コピーしたグリフィスの手稿の整理と判読を、デジタル化しつつ行った。そしてグリフィスの日本観を明治以降の大きな流れの中で位置づけるべく、8月刊行予定の著書『ハーンとグリフィス』にまとめた。
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