研究課題/領域番号 |
16K02612
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
間藤 茂子 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (90579468)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 日系ラテンアメリカ文学 / 日系人アイデンティティー / 日本国民アイデンティティー / 日本国ナショナリズム / 移民史 / 日系ペルー人作家 / 日系ボリビア人作家 |
研究実績の概要 |
今年度の研究目的は主に三部に分けることができる。目的の一つは、引き続き日系ペルー人作家アウグスト・ヒガ著短編小説集『Okinawa existe』(2013)と小説『Gaijin』(2014)に描かれる日系共同体のアイデンティティーと第二次世界大戦前後に構築された日本のナショナリズムがどのように密接に絡んでいるのか、日系共同体の均一されたイメージ「被害者である日系人」の姿と記憶がどのようにヒガの登場人物によって崩壊されているかを探究し、論文にまとめ発表することであった。二つ目の目的は、日系ペルー人作家カルロス・ヨシミト・デルヴァリェの短編小説集『Rizoma』(2015) の主テーマを探索し、他の短編小説、特に執筆活動をし始めたころに発表した「Ciudad de Cristal」(2009)に描かれる日系ペルー人が経験した人権侵害のテーマとどのような関連性があるのかを探求することであった。まずは、「Ciudad」に描写されている父を強制送還された日系三世の子供の心理と記憶について分析した論文を仕上げた。次に、他のほとんど全ての短編小説には日系人の話は直接関連していなく、何らかの形で距離を置いていることを発見した。第三の目的は、焦点をペルーからボリビアへ移し、沖縄人のボリビアへの移民史と、いわゆる「沖縄人問題」がどのように日本政府のボリビア移民斡旋、プロパガンダと関連していたのか、また、どのように沖縄人移民は日本国民アイデンティティー(または沖縄人アイデンティティー)を抱え、ボリビアでそれを構築していったのかについて、沖縄、ボリビア、サンタ・クルーズ、コロニアオキナワで調査することであった。さらに、歴史的背景の知識を得た後に、日系ボリビア人ペドロ・シモセの詩集に日系ナショナリズム、日系アイデンティティーの痕跡が表現されているのかを探求するのが第3の最終目的であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度初めて日系ボリビア人、詩人ペドロ・シモセについて検索を始めた。日本では和訳されたシモセの詩集を得ることはできたが、ほとんどの詩集は絶版となっており日本では難しいが、アメリカ、スペイン、ボリビアで入手できることを知った。一次資料であるシモセの詩集をアメリカ、スペイン国家図書館、ボリビアでできるだけ収集することができた。また二次資料についてもある程度上記の各国で入手した。詩集はある程度まで精読したが分析し論文にまとめるまでには至らなかった。また、シモセの詩集を和訳した翻訳者と交流することができた。しかし、詩人本人とは計画をしていたインタヴューを実現することはできなかった。 前年度から継続中の日系ペルー人作家著文学作品を分析し論文として発表することはできたが、今年度、再来年度も継続しなければならなくなった。理由は、新しい日系ペルー人が登場したこと、日系以外のペルー人作家が日系ペルー人についての作品を発表したことなどがあげられる。また、日系ペルー人作家の専門家であるIgnacio Lopez-Calvo氏の紹介で日系人作家Fernando Iwasakiとインタヴューをすることができた。その会話からさらに新しいテーマ、Iwasaki著作の支倉常長(安土桃山―江戸時代)の使節団渡航の経路を記した歴史書について、分析する意欲が湧いている。このような理由から日系ボリビア人シモセの詩集に関連した二次資料の分析が遅れている。さらに研究分担者として、他のプロジェクト日系ペルー人ホセ・ワタナベの詩集を分析している。研究内容は本研究と関連性は深く意義あるものであるが、シンポジウムの企画や開催などに時間を費やしたため本研究に遅れが出てしまっている。しかし、最終的には両方の研究内容を総合的に集約し、効果的に発展させていくことになるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
今後優先にしたいことは日系ボリビア人ペドロ・シモセの詩集の分析を始めることである。上で述べたように、日系ペルー人作家著作の新しい作品の発表と新人の日系ペルー人作家、日系社会を描く(日系以外の)ペルー人作家が登場する中で、ペルーに焦点を置き続け研究を進めたいという願望は残るが、まずはボリビアに焦点を置くことが必要である。現在までに収集したシモセの詩集、ボリビアへの移民が始まった時代背景に関する二次資料を再度精読し分析し始め論文にまとめ発表することを今後の第一の研究目的とする。しかし、日系ペルー人作家に関する継続中の論文発表をもし続けていく予定であり、これを第二目的としたい。さらにアルゼンチンにおける日系社会、日系人作家についての調査を開始する予定である。具体的に言えば、まずは、日系ボリビア人シモセの詩集から日本(または沖縄の)ナショナリズムが現れている詩を選び、日本のナショナリズムとは何なのかがどのように表されているかを分析し論文発表する。2018年3月に開催されるスペイン語圏文学文化学会で発表することを目標にする。次に日系社会を描く日系以外のペルー人作家の文学作品の分析に取り組んでいる最中であり、これを完了させる。2018年8月に開催されるアジアと南米を考える学会で研究発表が決まっており論文を査読付き学術誌に投稿する。最後の目標は日系アルゼンチン作家著文学作品とアルゼンチンの日本人移民史関連資料を収集することである。
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