研究課題/領域番号 |
16K02614
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
中川 成美 立命館大学, 文学部, 教授 (70198034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | クィア理論 / 日本文学 / アフェクト・セオリー / 身体性 / 文学的想像力 / プロレタリア文学 / 3・11以降の文学 / フランス哲学 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究としては、クィア理論を文学の上に、どのように反映していくかについて、いくつかの試みをした。先ず、1920-30年代日本文学、特にプロレタリア文学における身体性の問題について、情動という側面から考えてみた。平成29年6月30日から7月2日までイギリス・リーズ大学にて開催された国際シンポジウム「転向:歴史、文化、政治性」にて「感情的倫理性としての転向」を発表した。これは「文学と情動ー発見としてのプロレタリア文学ー」(『立命館文学』2017年8月)として発表した。 ここでクィア理論の基本的素地としてアフェクト理論の重要性を指摘したが、未だ日本文学では定着していない情動理論を接続させながら、身体と意識、感情との接合を考察した。同年9月1日にはリスボンにて開催されたヨーロッパ日本学会(EAJS)にて「視覚芸術としての文学;3.11以降の想像力と視覚性」を発表、現代作家における情動的把握における異質な感覚、クィア感覚について分析した。この後、パリに滞在してクィア理論とアフェクト理論の接合点としての視覚芸術と文学の関係についての調査を、パリ国立図書館、パリ・ディドロ大学図書館などで行った。特にベルグソン以降の感情と意識の派生についての研究を渉猟した。平成30年3月24日にはワシントン・D・Cにて開催されたアメリカアジア学会(AAS)でジョージ・シーポス氏が組織されたパネル「Coerced Beliefs and Willing Conversions: Tenko Literature in Pre- and Postwar Japan」に参加、ディスカッサントとして、「転向」という現象に付随する身体的、情動的知覚へのクィア理論の必要性を弁じ、情動論の深化を図った。なお、平成29年7月に情動の問題を考えた「戦争をよむ」(岩波新書)を刊行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、予定していた研究会やコンファレンスが、自身や家族の病気、入院などで予定通り進行しなかった。当初は、出版計画に従って、日本内で研究会を持つ予定であった。 ただし、海外での会議の出席を通じて、アメリカ、ヨーロッパの日本文学研究者、またクィア理論、アフェクト理論の専門家などと接触して、平成30年度に予定している国際会議の下準備が出来たことは、研究進捗において有益であった。クィア理論をセクシュアリティのみに括り付けるのではなく、より広い感情、情動と身体との関与という側面から考えていくための様々な基礎文献を本年度は集められたことも収穫であった。平成30年度には最終年として、出版計画とあわせて進行させていきたい。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は研究最終年を迎えるにあたって、国際会議を主催したいと考えている。また出版計画に従って、小さなワークショップをもちたい。同時に立命館大学国際言語文化研究所のジェンダー研究会と協力して、該当分野に関するシンポジウムや研究会を企画する予定である。 当初、考えていた日本文学へのクィア理論分析の有効性という問題は、より大きな人間の感情と身体の問題へと発展していったが、ここで重要なことは、例えばイブ・セジウイックが主張するように、単にクィアな認識や感覚がセクシュアリティのみに括り付けられているのではなくて、身体の再認識の問題として考えていくことだ。巨大な災禍や戦争、あるいは政治的抵抗など、文学においてこれまで語られつづけてきた主題を再考することも、この道筋を考えていくためには有効であると思われる。非常に大きなテーマへと進展してきたが、30年度はこれらを総括して、より精緻な理論へと研鑽を重ねていきたいと願っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
海外出張旅費が書類の不備があり、それを請求したために提出が遅れた。現在は申請をすべて終えた。
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