研究課題
本研究課題の目的は、メディスンマン(Medicine Man、本草医、Herbal Man)の言説における文献的・実効的側面について分類・整理することで、神話・文学の生成における彼らの重要な役割とその視点から得られる新たな「医療人文学」としての文学生成理論の構築である。そのために、従来の文献学や比較文学とは異なる新たな研究分野・手法である「医療人文学」の提唱・普及を行うとともに、その「薬理」の明示を行う。平成29年度は、本科研課題と水門の会東京例会共催の国際シンポジウム「古辞書と本草学―医療人文学と文献学の融合―」を実施し、医療人文学研究の普及と研究者ネットワークの構築につとめた。この国際シンポジウムを契機に、新たな研究協力者も加わり、企画号など、来年度以降の医療人文学に関するイベント計画も進んでいる。個々の研究進捗では、研究代表者の毛利は、引き続き、先行研究の整理・分析とともに、『万葉集』『源氏物語』および儀礼関連テキストにみられる医療行為およびその「薬理」についての研究を実施した。加えて、沖縄での追加調査を行うとともに、これまでの沖縄調査の一部をまとめることで、メディスンマンの実効的側面を整理することができた。成果の一部は、医療学部における文学教育(医療人教育)に反映している。また、研究分担者の中尾は、主に『古事記』にみられる医療行為および「薬理」についての研究を引き続き実施した。加えて、本科研課題の目的である、人文学系アプローチと医学・薬学・生物学・生命科学系からのアプローチのクロスオーバー新領域研究の実現を目指した文理融合型の医療人文学研究を深化させるため、医療従事者へのヒアリングやConcordia College等の海外研究者とのミーティングを密に実施した。
2: おおむね順調に進展している
メンバ―はそれぞれ、(1)本研究課題の調査研究実施のための基礎的研究、(2)関連研究者とおよび海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事した。その結果、新たな研究協力者も加わり、研究成果が着実に蓄積されつつある。共催の国際学会では、「医療人文学」という新たな研究手法・知見の提唱・普及活動を行うことができ、特集号などの企画も進んだ。各人の研究成果は、メディスンマンの言説における文献的側面からみる「医療人文学」の「薬理」研究が主流であるが、実証的側面の解明と、その理論構築のための模索が進んでいる。2年目としてはまずまずの実績であった。ただし、医療従事者へのヒアリングの結果を含め、「医療人文学」という研究手法の明確化がいまだ成し遂げられていないことから、「おおむね順調に進展している」とする評価が妥当であると考えた。
本研究課題のメンバーは、平成30年度も継続して(1)本研究課題の調査研究実施のための基礎的研究、(2)関連研究者とおよび海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事する。具体的には、主に以下の3点の実施を予定している。第一に、平成28年度の沖縄調査で明確になった、実際の病例に対するメディスンマンの処方およびその効果について追加調査を行う。第二に、その成果をもとに国際学会で発表を行い、海外研究者とのネットワークを強化する。第三に、平成29年度実施の、水門の会東京支部と共催で行った医療人文学シンポジウムの成果を特集号としてまとめ、世間に発信する。また、文理融合の「医療人文学」研究会の構築を目指す。
(理由)旅費の支出申請が年度末となったため、残額は次年度使用とした。(使用計画)次年度の旅費および海外学会誌への投稿に係る費用その他経費に使用する予定である。
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関西大学高等教育研究
巻: 9 ページ: 49-56
巻: 9 ページ: 69-78