研究課題/領域番号 |
16K02615
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
毛利 美穂 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (70556026)
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研究分担者 |
中尾 瑞樹 関西大学, 教育開発支援センター, 研究員 (60773794) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 医療人文学 / 比較文学 / 生命科学 / ナノライフサイエンス |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、メディスンマン(Medicine Man、本草医、Herbal Man)の文献的・実際的言説をもとに、神話・文学の生成における彼らの役割とその視点から得られる新たな「医療人文学」としての文学生成理論の構築である。そのために、従来の文献学や比較文学とは異なる新たな研究分野・手法である「医療人文学」の提唱・普及を行うとともに、その「薬理」の明示を行う。 2019年度の実績は、主に次の4点である。(1)沖縄でのインタビュー調査をもとに、メディスンマンの言説を分析・整理し、文学生成理論の構築に向けて、研究代表者の毛利は、『祈りと祈りの場』にて成果を報告した。(2)中国・清時代以前の本草文化を確認するため、台北故宮博物院の展示「長寿にして健康:院蔵医薬図書文物特別展」を見学し、台湾の道教調査および国立台湾大学での本草書調査を行うとともに、国立台湾大学日本文化センターと情報交換を行った。(3)2019年度は、令和天皇即位に伴い、日本神道最大の祭儀(秘儀)・大嘗祭の舞台である大嘗宮を実見できる唯一の機会であることから、大嘗宮を見学し、平成と令和の差を確認しながら整理した。その成果の一部として、江戸期の医療の発展に寄与した木村蒹葭堂と本草の世界について整理し、大嘗祭神饌における本草的な意味付けについて発表を行った。(4)本科研課題の目的である、人文学系アプローチと医学・薬学・生物学・生命科学系からのアプローチのクロスオーバー新領域研究の実現を目指した文理融合型の医療人文学研究を深化させるため、研究協力者の中尾は、ナノライフサイエンス学の学びを深め、その結果、今後の国内外の研究協力者との交流を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各人の研究成果は、メディスンマンの言説におけるインタビュー調査結果と、主に薬学および生命科学分野をからめた文献的側面からみる「医療人文学」の「薬理」研究が主流である。メンバ―はそれぞれ、(1)本研究課題の調査研究実施のための基礎的研究、(2)「医療人文学」としての文学生成理論の構築に向けての仮説検討、(3)関連研究者および海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事した。その結果、「医療人文学」という研究手法が明確され、研究成果も蓄積されつつある。「医療人文学」という新たな分野の構築に向けた欧米のMedical Humanitiesの動向を探りつつ、道教文化が色濃く残る台湾で調査を進めることができたことはまずまずの実績であった。 ただし、2019年12月および2020年2月に予定していたASEAN地域での調査および出張・研究発表が、新型コロナウイルス等の発生に伴って中止となり、対外的な活動を自粛せざる得なかったことが、研究の鈍化をもたらしたと感じている。そのため、自粛による制約を補うため、収集した江戸期の医学書等(「済民記」「上池秘録」「神仙解毒万病円服用之書」「訓蒙図彙」「大和本草」「医事或問」「薬徴」等の和本)を読み進め、知見を深めることになったことをふまえて、「おおむね順調に進展している」とする評価が妥当であると考えた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、成果をまとめるため、(1)調査の補足、(2)「医療人文学」としての文学生成理論の構築に向けての仮説のまとめ、(3)関連研究者とおよび海外研究機関、研究者とのネットワーク構築、情報交換に従事する。 ただし、2020年1月以降、依然として収束しない新型コロナウイルス流行に伴う活動自粛によって、2020年5月および7月に参加予定であったアメリカのカンファレンスが中止となり、10月参加予定の中国のカンファレンスの詳細が不明である現状、当初の予定とは研究推進方法を見直す必要が出てきたのも事実である。そこで、研究協力者との打ち合わせの結果、次の4点を目指していく。(1)現時点までの成果をまとめることに注力することを中心に、(2)社会情勢(新型コロナウイルスの流行による政府・自治体の本心)に沿いながら、必要に応じて追加調査等ができる場合は手配する。また、(3)国際カンファレンスでの発表や海外研究者とのネットワーク強化を模索し、(4)文理融合の「医療人文学」発信、そして研究会の構築を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年12月および2020年2月に予定していたASEAN地域での調査および出張・研究発表が、新型コロナウイルス等の発生に伴って中止となり、対外的な活動を自粛せざる得なかった。また、すでに2020年5月および7月に予定していたアメリカの国際カンファレンスでの研究発表も中止となっている。そのため、従来のカンファレンス参加・開催については、一考の余地があるが、ようやく認知されるようになった「医療人文学」研究を進めるため、研究成果をまとめて、書籍やWebで発信することを中心に、各研究推進の方法を模索していきたい。
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