本研究は、〈近代〉日本とりわけその文学的な諸領域において、最も包括的また根底的な浸潤を許したかに思われる自然科学思想としての生物学、もしくはさらに踏み込んでイデオロギーと称すべきかに思われる自然史的社会観としての「社会進化論」ないし「優生思想」について、その相互の関係における微細なポリティックスを、言説の実証的な確認作業を通じて――もちろんその影響関係は非-直接(字義)的、相互に触発的、重層決定的でもありうるため、粗悪な実証主義(特定の用語の非有機的な点在を字句レベルでのみ関連づける)に陥らぬよう意識しつつ――考察し、これまでにない形で思想化をはかろうとするものである。それら思考形態の相互の転換、隠喩的な転位、投影、あるいはまたイメージの再生産構造を見定めてゆくために必要な作業として、三年目である2018年度も計画に則り、自然主義文学および同時代の新聞・雑誌、生物学的思想の由来と系譜を明らかにする思想文書・記事などの、調査・収集・読解を、研究支援業務協力者の助力を得つつ行なった。これによって、多角的な比較文学、比較思想的アプローチを必須の前提とする本研究における、それぞれに系統化された資料群に基づいた見解を述べる充分な地盤が、依然限定的とはいえ、整えられたと言うことができる。ここから、昨年度発表の論考内容にさらなる研究の進捗を加え、またハンセン病(文学・教育)に関する見解を専門家の会合にて述べ、成果を地域の教育委員会の後援する講演において広報することのできた点などに、成果としての意義があった旨、報告できる。
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