研究実績の概要 |
琉球方言に関しては,奄美方言は特に徳之島浅間方言と喜界島諸方言を,沖縄方言は久米島諸方言を対象にアクセント調査を行なった。 徳之島浅間方言は,これまでの調査資料を全て取り込み,アクセント体系全体の解釈を行なった。その結果,lsl, slsl構造の語(sは軽音節,lは重音節)には5つの型,ll, lls, lssl, sssll, slsls構造には4つの型があり,これまで一部で主張されてきたような2型ないし3型アクセント体系等では解釈できず,全体の形が問題となる4つのパターンと,位置で対立する一つの上げ核からなる特異なアクセント体系であると位置付けた。 喜界島諸方言は,地名語彙と外来語を詳しく調べた結果,中里方言等は2型体系としてきた自説を訂正し,3型アクセントであるとした。従来から3型としてきた小野津方言もその全体を取り上げ,やはり3型アクセントであるが,非常に複雑な交替規則をもつ点が他と異なると位置付けた。その地名複合語と外来語のアクセント資料も公開した。 久米島諸方言は,同島内の調査地点を増やし,調査内容も拡大した。その地域差と各地点のアクセント解釈は2017年度に公表を予定している。 一方,本土方言に関しては,「南部弁の日」への参加をきっかけに,北奥諸方言(青森県と岩手県)の調査を再開した。青森県の津軽方言は弘前市,五所川原市,つがる市,その南部方言は八戸市,下北半島の風間浦村など,そして岩手県の南部方言は盛岡市と雫石町を対象に,名詞,動詞,形容詞,それらの助詞付き形,活用形を記録した。南部方言の一部は公刊し,八戸市では語頭の隆起が見られることを初報告した。青森県方言は語音面でも興味深く,キツネ,イノチ,キモチなどが,ki~zine, ino~zji, kimo~zjiと,隣接する鼻音の影響を受けて本来の清音に対応する音まで前鼻音化する例があることが分かった。
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