継続的におこなってきた東濃(岐阜県南東部)西部の方言の音声に関する調査のうち、平成30年度は、多治見市の高齢層の談話音声データを収集し、そのプロソディの分析をおこなった。調査対象者に録音の許可を得たものではあるが、これまでの読み上げ式によるアクセント調査とは異なり、自然な会話におけるリズムとイントネーションを分析することができたことにより、次のことが明らかになった。 第一に、モーラ方言でありながら文や節の末尾以外の位置で1拍音節の長さのばらつきが大きく、その要因は文初頭1拍音節が長いことである。この結果は10人の調査対象差全員に見られ、文初頭拍と語中拍の持続時間には有意差が認められた。また、文初頭拍のうちでも、初頭拍に頭子音がない場合には延伸しないことも明らかになり、頭高型アクセントによりその初頭拍が高い場合も延伸が少ないことがわかった。 第二に、頭高型以外のアクセントを持つ語が文頭にある場合に見られる文頭のイントネーションの上昇が、当該方言では東京方言等に比べて遅く、いわゆる遅上がりの現象が見られることがわかった。特にアクセント核が3拍目以降ないし無核の場合にその傾向が顕著であり、文頭拍の延伸と文頭イントネーションの上昇幅との相関も認められた。 これらの結果は学術論文にまとめたほか、初学者向けの叢書への寄稿「音声面での「○○語(方言)らしさ」の定義は可能か―東濃西部方言の実例をもとに―」(2019年)にまとめ、公開研究交流会第12回「人文知」コレギウムで発表した。調査地域においてもコミュニティラジオFMPiPiで取り上げられたほか、HP「多治見弁の部屋」およびブログサイト「多治見弁blog」において市民向けに簡易な形で紹介している。
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