研究実績の概要 |
本課題においては、日本語学・日本語教育学において「言いさし」と称され、近年は言語類型論の分野で「非従属化(insubordination)」として知られるようになった(Evans 2007)、本課題で「中断節」と呼ぶ構造を対象にした、機能類型論・語用論的な研究である。中断節は、広義の「従属節」が文法化のプロセスを経て、特定の語用論的機能を有するに至った「主節」的な構造であり、本課題においては、言語類型論と対照言語学、語用論を複合させた観点から、特に日本語、韓国語、インドネシア語等のアジア言語、英語、フランス語、フィンランド語等のヨーロッパ言語の中断節を分析した。本研究で探求した研究課題は、日本語学において用いられている「連体・準体」と「連用」という、「名詞」的な構造対「述語(特に動詞)」的な構造の区別を援用し、「中断節」の中で「連体・準体」タイプと、「連用」タイプの間でどのような語用論的な違いがあるかを明らかにした。これまでの日本語学・日本語教育、また言語類型論分野においては、「連用」タイプの中断節(例:~し、~から、~けど, If..., Because..., 等で終結する節)に研究の焦点が置かれていたが、本課題によって、特に日本語や韓国語において種類が多く、使用頻度も高い「連体・準体」タイプ(例:~こと、~わけ、~のといった形式名詞・準体助詞あるいは語彙的な名詞を主要部とする独立連体修飾節)が非常に重要な語用論的な機能を担っていることが明らかになり、「中断節」のタイポロジーの再構成に貢献することができた。
|