研究課題/領域番号 |
16K02629
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
田中 真一 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10331034)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 借用語音韻論 / イタリア語 / 日本語 / プロソディー / 音節量 / 長母音 / 二重子音 / 言語接触 |
研究実績の概要 |
2年目に当たる今年度は、とくにイタリア語由来の日本語借用語における、原語長母音の受け入れについての分析を継続した。それらが受け入れられる条件と受け入れられない条件とに詳細に分けるとともに、非対称性の生じるメカニズムについて、最適性理論にもとづく分析を提示した。 イタリア語の長母音は、原語の強勢を介して日本語に長音として借用されること、また、もう一つの特殊モーラである、促音(ッ)の受け入れ方法との間に、強勢が関わるという意味で共通性の見られることを明らかにした。 また、長母音が日本語に短母音として受け入れられる原語強勢以外の例外的環境として、①とくに語末位置の/i'a/,/u'a/といった、前半部に強勢を伴う上昇二重母音であること(trattori':a (trattoria) → トラット'リア)、②長母音を受け入れないことで、日本語側の平板アクセントを実現するもの(okari':na (ocarina)→ オカリナ0)の2点が主なものであることが明らかになった。 また、強勢を持つ語同士の長母音受け入れの位置の非対称性については、日本語の借用語アクセント規則一般から(そこに母音長受け入れのシステムを組み入れることで)矛盾なく説明できることを新たに提示した。語末から遠い位置の長母音はフット形成位置が語末から離れる(理論的には、Align-Rの違反の程度が大きくなる)ため受け入れられず、短母音として受け入れる(理論的には、Align-Rの違反の程度を小さくする)ことで語末に使づけるという方策が働くことを示し、記述的一般化と理論的一般化との間に整合性を示した。 上記の成果について、論文という形で公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの収集を継続して行っており、また、数年に渡る研究の継続を通して、理論的解釈の道筋が、ある程度見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度に当たる2018年度は、以下のことを念頭に研究を進める。 ①まず、イタリア語の長母音と二重子音の受け入れとを総合的に分析する。②次に、とくに、語末から離れた位置のイタリア語強勢長母音を、日本語話者(また、他言語を母語とする話者)が知覚可能かどうか調査する。これにより、実在借用語における長母音受け入れの位置の非対称性の実態を検討する。 ③また、イタリア語において、英語やドイツ語からの韻律構造をどように借用語として受け入れるのか、とくに複合語をはじめとする結合型のアクセント調査により分析する。複合語アクセントは一般に、前部・後部いずれかのアクセントを保存する(もう一方を削除・弱化する)ことで実現されるが、後部要素を保存するイタリア語が、前部要素を保存する言語(英語やドイツ語)から語を受け入れるとき、どのようなことが行われるか、また、入力言語の別が関わるか否かを分析しする。さらには(同じく後部要素を保存する)日本語の借用複合語に見られるパターンと対照する。 ④上記の成果を国際会議等の学会で発表し、その成果を論文にまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
おもに、旅費の使用額が当初の予定と異なったため、次年度使用額が生じた。具体的には、他機関・他予算から旅費が支出されたこと、また、当初の予定より調査・資料収集の機会がわずかながら減ったため、次年度額が生じた。 次年度の旅費(とくに国際会議への出席)、そして、成果公表のための謝金、印刷費等の追加予算として、積極的に使用する予定である。
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