最終年度に当たる2019年度は、研究全体のまとめ、および、他言語との方策の異同をテーマにして研究を遂行した。 研究のまとめの作業としては、4年間で得られたデータによる記述的一般化の知見に対して、理論的な面から解釈を試みた。前年度後半から行った、イタリア語・日本語間の強勢(アクセント)と音節(長母音・二重子音)の受け入れにおける相互作用について、最適性理論による定式化を種々の観点から試みた。とくに日本語からイタリア語に借用された語における、アクセントと音節の受け入れについて、理論的考察を試みた。 二つ目の実績である、諸言語の受け入れ方策との関わりについては、とくに、韓国語を母語とする日本語学習者の長母音と二重子音、撥音の受け入れについて、コーパス資料に基づく調査および分析を遂行した。国立国語研究所のC-JASというコーパスを用い、韓国語を母語とする学習者は、日本語のリズムを正しく発音する場合とできない場合とで、音節配列による非対称性が見られることを明らかにした。具体的には、「コート」「さっか(作家)」のようなHL(H:重音節、L:軽音節)の音節構造は、正しく処理されやすいのに対し、「ほりゅー(保留)」「ぎろん(議論)」のようなLHの音節構造は、相対的に誤発音が多いこと、また、それらの結果、出力形において、韓国語母語話者は極端にHL型を産出し、LH型を忌避することが明らかになった。これらの分析結果にもとづき、L2の日本語の無標と有標の音節配列が過剰に適用された結果であるという解釈を施した。 また、関連して、日本語における特殊モーラの機能についての論考をまとめ学術論文として発表するとともに、上記のいくつかの成果を、学会と研究会において発表した。
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