研究課題/領域番号 |
16K02632
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
原田 なをみ 首都大学東京, 人文科学研究科, 准教授 (10374109)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本手話 / 条件文 / 意味論 / 統語論 / うなずき / ロールシフト |
研究実績の概要 |
本研究では、平成28年度は日本手話の条件文の統語的側面について、日本手話データを都道府県毎に語彙および対話の両面から収録する目的で現在国立情報学研究所にて開発中の「日本手話話し言葉コーパス」を用いて調査を実施した。 日本手話の研究では、条件節(「もし … ならば」に相当)の非手指表現は、既存の手話言語の研究で言及されている眉の位置と同等のものが見られるという観察(岡・赤堀2011)と、眉の位置よりもむしろ頭の位置により条件節が示される(市田 2005)という二つの観察がある。この二つの先行研究によると日本手話の条件文は「眉上げ」「頭の動き(上/前/後)」という二種類の非手指動作によって表される、ということになるが、この二種類の非手指動作が共起するのかどうかは明らかではなかった。 その点を明らかにするための調査を、上述の「日本手話話し言葉コーパス」のデータを用いて実施した。コーパスのデータは動画とその注釈((日本語の)「逐語訳・直訳・翻訳」という三層構成)から成り立っている。本研究では日本手話の条件文の統語的実現を調査するため、注釈者に確認が取りやすい状況にあった長崎県の対話データを参照した。30代から70代の男女の話者からなる8組の日本手話話者が「カレーの作り方」というテーマで日本手話を用いて対話を行ったものである。8組のうちうなずき(およびそれに付随するNMM)を用いた条件文が条件文の総数の過半数を占めた組は4組であり、残りの4組はロールシフト(話者が文の主語の視点を取って手話を表出する形式)を用いて条件節を表出する条件文が過半数を占めていた。全体では、50文中22文と、半数近い条件文がRS型の条件節を有していた。質的な面では、うなずき型は、述語の箇所で「頭を上げ、やや後ろに傾けてから前向きに下げる」という形式のうなずきが見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度では、既存の日本手話話しことばコーパスのデータの再確認・再分析を実施することを目標に、作業を進めてきた。その結果、上述の「これまで観察されてきたうなずきを用いた条件文(以下うなずき型)以外に、ロールシフト(role shift; 以下RSと省略)を用いる表現(以下RS型)も多出する」という事実が明らかになった。従来の文献における観察(日本手話の条件文ではうなずき/頭の固定化が大切)に加えて、日本手話のみならず世界の諸手話言語の研究においてもこれまで観察されてこなかった、「ロールシフト」(手話言語における話者交替)が条件節の表出に関わることを明らかにした点で、研究は順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の成果について、「条件文」「ロールシフト」という概念について、今一度明確にした方が良いという指摘があった。また、分析を手話の動画データではなく、(日本語による)書き起こし文から始めたため、どうしても分析が「日本語寄り」になってしまっているという指摘もあった。そうした指摘をふまえ、平成29年度は日本手話母国語話者(ろう者)に分析の結果の再確認を依頼し、議論を進めた上で、データ分析上の新しい切り口を探す予定である。また、その結果に応じて、独自のデータの分析を書き起こしから始めて進める予定である。
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