研究課題/領域番号 |
16K02633
|
研究機関 | 山梨県立大学 |
研究代表者 |
萩原 孝恵 山梨県立大学, 国際政策学部, 准教授 (90749053)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | タイ人日本語学習者 / 笑い / 舌打ち / 発話 / 意味・機能 / 出現位置 / 生起環境 / OPIデータ |
研究実績の概要 |
本研究は,発話に伴う「笑い」や「舌打ち」を一連の発話行為と捉え,その生起環境の分析を通して,タイ人話者の情意的・認知的行動を明らかにすることを目的とする。初年度にあたる2016年度は次の2つの課題に取り組んだ。 まず「笑い」については,タイ人日本語学習者100名の日本語OPI(Oral Proficiency Interview)データを対象に,「笑い」がどのような生起環境で現れるのかを調査した。「笑い」の出現傾向を総合的に捉えるために,KH CoderのKWICコンコーダンスを用いてその前後の発話を抽出した。そして,抽出した「笑い」の出現を分析するために,a.出現回数,b.出現域,c.出現位置,d.生起環境という4つの観点から検討した。調査の結果,次のことが明らかになった。1.発話に伴う笑いの出現度に個人差はあるものの,総じて多かったのは中級-中レベルであった。2.笑いの8割は,自分のターン内に現れていた。3.笑いは発話途中に挿入されるものが約7割を占めていた。4.笑いは,その出現位置により機能が異なっていた。5.「不適切な笑い」と解釈され得るものは,その笑いの原因や理由が説明できないものであった。6.笑いは,感動詞,特に「検討中」という内部状態と結びつくフィラーと共起する傾向がみられた。7.フィラーとの共起は,笑う前より笑った後の方が多く,言いよどみや繰り返しと共に観察された。 次に「舌打ち」については,OPIデータにおける「舌打ち」の生起環境が,異なる種類の会話においても同様に観察され得るのかを検証するため,データ収集を行った。収集はタイのバンコクにある大学で,3人ずつ計5グループに対してタスク型会話の実験をした。使用言語はタイ語と日本語で,全て録画した。しかし,撮影されているという非日常性からか,データ収集がうまくいかなかった。そのため,収集の方法を再検討し継続する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「笑い」については当初の計画以上に進めることができたが,「舌打ち」については思うようにデータが取れなかったことから,今年度の進捗状況は総合的に判断して(2)と評価する。 1.「笑い」の研究 「研究実績の概要」に記したように,「笑い」については4つの観点から分析し,タイ人日本語学習者の発話に伴う「笑い」の特徴を示すことができた。この研究成果については,2016年9月にインドネシアのバリ島で開催された日本語教育国際研究大会(Bali ICJLE 2016)で発表した。 2.「舌打ち」の研究 萩原・池谷(2015, 2016)が示したOPIデータにおける「舌打ち」の生起環境について,異なる種類の会話においても同様に観察され得るのかを検証する必要がある。そこで,タスク型会話による実験を計画した。データ収集は,タイのバンコクの大学で行った。「舌打ち」の出現に照準を合わせるためのリサーチ・デザインとして,萩原・池谷(2015, 2016)の調査結果をもとに,話す内容に多少の負荷をかけるようなタスクを検討した。会話はタイ語と日本語で実施し,全て録画した。しかし,映像に「笑い」は数多く観察されたものの,「舌打ち」はほとんど観察されなかった。ビデオカメラを止めた直後に「舌打ち」が観察されるというハプニングも起こった。こうした研究におけるターゲット・データ収集の難しさを改めて知った。今後の取り組みに向けて,ビデオカメラによるストレスをできる限り軽減する工夫が必要である。この課題については,調査協力者の状況を把握している現地研究協力者と相談したうえで、引き続き取り組んでいく。
|
今後の研究の推進方策 |
「笑い」や「舌打ち」の生起環境には,その前後にフィラーが数多く出現することがわかってきた。これは,タイ人話者の情意的・認知的行動が「笑い」や「舌打ち」となって現れているものと考えられる。そこで,これまで「笑い」や「舌打ち」を通してその生起環境を検討してきた視点をここからフィラーに移し,フィラーを通して「笑い」や「舌打ち」の生起環境をみていくこととする。この研究成果は、台湾淡江大学で開催される第11回OPI国際シンポジウムで発表する予定である。 なお,「現在までの進捗状況」に記したように,自然発話に伴う「舌打ち」データの収集に関しては,現時点において困難な状況にある。しかし,この課題については,場面・状況を再検討したうえで,現地研究協力者と相談しながら取り組んでいく。 また,今年度収集した映像データに関して,その書き起こしも含め,資料整理を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2016年11月にタイの大学で実施したタスク型会話(タイ語による会話と日本語による会話)の映像データのうち,タイ語の部分の書き起こし作業がまだ終わっていない。この人件費・謝金の支払いが実行されていない。
|
次年度使用額の使用計画 |
・「舌打ち」データの継続収集,データ書き起こし,データ抽出作業,データ整理等に人件費・謝金を使用する。 ・研究成果発表として,台湾淡江大学で開催される第11回OPI国際シンポジウムでの発表(決定),タイ国内での発表(計画)のための旅費に使用する。 ・分析・考察を進めるための文献を購入する。
|