本研究は、発話に伴う「笑い」や「舌打ち」を一連の発話行為と捉え、その生起環境の分析を通して、タイ人の情意的・認知的行動を明らかにすることを目的とする。最終年度にあたる2018年度は、次のように研究を進めた。 1.「舌打ち」について これまで、その存在に対してほとんど言及されてこなかった、不快な感情表出ではない「舌打ち」を取り上げ、発表した。発表では、タイ人の不快な感情表出ではない「舌打ち」を“苛立たない舌打ち”と称して、これまでの研究成果を視座とし、映像とともに、その存在を紹介した。“苛立たない舌打ち”は、日本語発話だけでなくタイ語発話においても使用されていた。こうした使用実態から、舌打ちのフィラー的用法にはタイ語による母語転用が示唆された。日本人にとってネガティブな気持ちの現れと捉えられる舌打ちが、タイ人の場合には「考えているとき、説明するときに出現する」フィラー的機能の舌打ちであったり、「感情・評価・態度を伝える前に出現する」感情表出マーカー的機能の舌打ちであることを明らかにした。 2.「笑い」について タイ人日本語学習者の笑いには、タイ語文化におけるフェイスが関係しているのではないかと考え、2018年3月に公開された「タイ人日本語学習者話し言葉コーパス」を利用し、その出現ポイントから笑いのパターンの分析を試みた。また、笑いがいかなるフェイスの現れであるかも検討した。分析の結果、タイ人日本語学習者の笑いのパターンは、①応答の笑い、②相づちの笑い、③フィラーのような笑い、④終わりの笑い、の4種類であった。笑いが示すフェイスは、①困った状況や場面で現れる場合、②緊張する状況や場面で現れる場合、③謙遜したり恥ずかしさを隠したりする状況や場面で現れる場合、④謝罪する状況や場面で現れる場合、⑤悲しいと言いながら現れる場合、の5種類であった。本結果は、口頭発表および論文として発表した。
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