研究課題/領域番号 |
16K02634
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
山崎 雅人 大阪市立大学, 英語教育開発センター, 教授 (00241498)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 視覚動詞 / 試行相文法化 / 漂白化 / 保持化 / 主観化と間主観化 / ベトナム語などの中国周辺諸語との通言語学的研究 |
研究実績の概要 |
本年度は、初めに日本モンゴル学会2018年度春季大会(2018年5月19日 早稲田大学)において、「モンゴル語における視覚動詞の試行相文法化用法の展開-日本語と朝鮮語との対照研究-」との題目での口頭発表を行い、以下のように主張した。すなわち、モンゴル語の視覚動詞の試行相文法化を、「漂白化」と「保持化」に着目し、同用法の特徴を日本語の「みる」と朝鮮語の《見る》を意味する動詞との対照研究に基づいて考察する。こうした視覚動詞の試行相文法化用法は、ハルハ・モンゴル語以外でも、ブリヤート語、オルドス語、カルムイク語などのモンゴル語族の諸語などでも確認できる。本発表に対しては、栗林均東北大学名誉教授やフフバートル昭和女子大学教授らから有益な意見を受け取った。 続いて、当初の予定通り東南アジア諸語の研究に着手し、日本言語学会第156回大会(2018年6月23日 東京大学本郷キャンパス)にて「ベトナム語の視覚動詞の試行相文法化の展開」との題目での口頭発表を行い、以下のように主張した。すなわち 本研究は、ベトナム語の視覚動詞“xem”《見る》が試行相の意味を有する文法化を、中国語の“看”及び日本語の「みる」と朝鮮語の《見る》を意味する動詞と比較することにより、これらの試行相文法化の段階的差異に関する考察を「漂白化」と「保持化」の概念を用いて分析し、さらに「主観化」の尺度を導入して、これらの四言語の間で、ベトナム語<中国語≦日本語<朝鮮語の順に視覚動詞文法化程度の大きさを関係づけられることを主張した。本発表に対しては、張隣声大阪府立大学教授(類型論)を始め、千田俊太郎京都大学准教授(朝鮮語学)らの聴衆から有益な意見を得ることができた。 この他、所属機関においては、大阪市立大学中国学会(2018年7月7日)で、「中国語と周辺諸言語における視覚動詞の試行相文法化の展開」との題目で招待講演を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来は三年目の2018年度をもって終了する予定であった本研究が、一年の延長をせざるを得ないことからして、遅れていることは否めない。これは、延長申請時の理由として記述した通り、昨年四月一日付で所属研究機関の文学研究科から同英語教育開発センターに所属先が変更となり、本年度から全学共通教育の英語カリキュラムの一本化のための改革チームの一員として、約三千人の受講生に対して英語を母語とする複数の教員(非常勤講師)をペアとして授業を進めてゆき、インターネットを介してその進度や受講生の反応などのクラスワークに関する情報を共有しあうシステムのもとで英語の授業を行うという、これまで所属機関において行われてきた英語教育において全く前例のない新教育体制の導入を行うため、その主たる責任母体である英語教育開発センターの構成員として、教材研究などの業務を優先的にせざるを得なくなった事情による。 さらに、本研究課題の内容においては、東南アジア諸言語の研究を三年目に行うことが当初の予定であったが、インドシナ半島の五つの主要言語である、ベトナム語、タイ語に加えて、クメール語(カンボジア語)、ラオ(ス)語、ビルマ語らの母語話者との連絡に予想外の困難をきたしたため、昨年度から一年に一言語を目安に母語話者の確保を行っている。そのため、本年度までで上記のうち後者の三言語は本研究計画では着手が困難であると判断したことにもよる。 また、2018年には日本北方言語学会の設立に伴い、満洲語文語に関する口頭発表と同会機関誌への論文投稿の必要に迫られた結果、その研究に期間後半のエフォートを費やしたために、本研究課題の追究には予定していたエフォートを割けないことになった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年となるため、これまでの知見を集約して全体像を把握するとともに、計画当初に目指していた到達段階との整合性を保持しつつ、予定していたことで未着手段階におかれていることを、この先の研究に発展的に継続させてゆく方向性を構築する。 すなわち、昨年度までの三年間では、言語地理学的見地からは、中国を中央に置いて、北方のアルタイ諸語と東方の朝鮮語と日本語に加えて、南方の東南アジア諸語のうち、ベトナム語を考察対象に加えるところまで至ったので、本年度のタイ語までをひと区切りとして、視覚動詞の試行相文法化に関して、段階差と地理的分布との関係を南北間で比較できるように共通尺度を確立する。 なお、タイ語の調査結果を七月の日本タイ学会研究大会で発表すべくエントリーまでは終了したので、この手続きを六月までに行う。 さらに、計画で記載した22言語のうち、本研究に従事する期間では未着手となるアイヌ語、エウェンキー語、チベット語、カチン語に関しては、本研究期間中には調査が困難であると考え、引き続き新たな科研費研究計画を申請して継続的かつ発展的に調査を行う。さらに、本研究中に新たにヒンディー語とタジク語にも視覚動詞の試行相文法化が認められることが分かったので、南アジアまで視覚動詞の試行相文法化の研究範囲を拡大して なお、フランス語でも、voir《見る》のイディオムである pour voirに「~てみる・試みに」という意味を有することから、視覚動詞の試行相機能を文法化以外の手段で表現することがアジア諸語の範疇を超えて存在することを今後の研究対象とする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、主たる物品費として、認知言語学理論の書籍に加えて、中国語の認知言語学関係図書及びシベ語の記述文法書と満洲語文語工具書籍などに支出した。その金額はこれまで三年間で最も高い支出額となったが、一年目の物品費を少し超える金額になっている。特に前年の支出が比較的少額であったため、累計で翌年度に使用できる額が残ったことになる。学会参加の出張旅費は、二年目が少なく一年目がそれより多く、この両年の合計額と当該年度がほぼ同じ金額で、これまでで最多の支出項目となった。 最終年度においても、引き続き物品費として、関係図書の購入費用と関係学会参加の旅費が主な支出となるが、当該年度より旅費を減らして調整する。
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