本研究は、依存・認可という関係性を基盤として、制約的な音韻表示理論の構築を目指すものである。その枠組みの特徴は、音韻現象の記述において、外因的な規則や条件ではなく、内因的な音韻表示要素そのものの特性に依拠することで、余剰性を排した音韻表示の可能性を追求し、理論的制約性を高めようとするところにある。 本研究では、当初の計画を変更し、研究代表者が本研究に先立ち展開していた音節の枠組みをそのまま韻脚に敷衍するのではなく、当該枠組みの制約性を高める理論的修正を行った。元の枠組みは、日本語の音節要素に分岐構造を仮定せず、子音群と長母音・二重母音はそれぞれ非核位置の音韻エレメント束と短母音の連続とみなすものであり、日本語の音配列の記述における理論的制約性を高められる一方で、音節表示において時系列関係を有する非核位置と核位置が存在することを認めており、これを音節構造の分岐とみなしうるという批判を受ける可能性があった。 この問題について、音韻構造は時系列関係を持たない音韻エレメントの併合により構築されるという非時系列音韻論の考え方を取り入れ、また、エレメント理論を拡張することにより解決を図ったのが本研究である。具体的には、併合を誘因する依存の関係に内心的依存(より融合的な音声解釈をもたらすもの)と外心的依存(より分散的な音声解釈をもたらすもの)の2種類を仮定することで、母音が頭子音の分布に強い制約を課すことと音節・韻脚構造における母音接続の制約の有無との間に言語類型的な関係があることを説明できる可能性があるとの結論を導いた。 本研究は、修正後の枠組みに基づく韻脚構造の分析においても、音節とモーラという韻律要素を併用することは余剰的であることを示唆するものである。
|