研究課題/領域番号 |
16K02647
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
斎藤 衛 南山大学, 国際教養学部, 教授 (70186964)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 比較統語論 / 併合 / ラベル付け / フェイズ / 転送領域 / 移動現象 / 照応形束縛 / 文法格 |
研究実績の概要 |
ラベル、転送およびカートグラフィーに関する研究を進めた。 (1) プロジェクト初年度に、"(A) Case for labeling: Labeling in languages without phi-feature agreement" (The Linguistic Review 33: 129-175, 2016) を発表し、接辞文法格が句を不可視的にすることを根幹とした日本語におけるラベル付けのメカニズムを提示した。2018年度は、接辞文法格がこのような性質を有する理由を追求し、格をK主要部とするTravis and Lamontagne (1992) などの分析を採用して、Kを弱主要部とすることにより説明を試みた。この成果は、"Kase as a weak head" として、McGill Working Papers in Linguistics 25 に公表した。 (2) カートグラフィーについては、ジュネーヴ大学の Giuliano Bocci氏、Luigi Rizzi氏と共同研究を遂行して、意味に基づく焦点の唯一性がイタリア語と日本語の様々な現象において観察されることを示した共著論文 "On the incompatibility of Wh and focus" を『言語研究』154号に発表した。 (3) 昨年度の転送領域に関する成果である "Notes on the locality of anaphor binding and A-movement" (English Linguistics 34: 1-33, 2018) において提示した仮説の帰結を追求した。Chomsky (2017) のワークスペース理論に基づいて、適正束縛条件の広範な適用、使役文における照応形束縛領域の拡張など、日本語特有の現象を説明できることを示した。この成果は、慶應義塾大学言語学コロキアム (3月19日) において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請書に計画を記載した研究は、2017年度までに予想を超える成果を得て、完了している。研究成果は、より根本的な新たな研究課題を提示するものであり、2018年度はこれに取り組んだ。 (1) ラベル付けに関する研究では、接辞文法格が句を不可視的にするという仮説により、すでに、多重主語文、自由語順、項省略、複合述語の多用など、日本語文法の特徴的現象に分析を与えている。また、トルコ語、マラヤラム語、中国語の項省略現象に基づき、分析を精密化する作業も行った。(2016年度) この成果は、接辞文法格がなぜこのような機能を有するのか、というより根本的な研究課題を提示するものであり、2018年度はこの課題に取り組み、仮説を提示した。仮説は、弱主要部とラベル付けに関する Chomsky (2015) の提案に修正を加えるものである。 (2) フェイズと転送領域の研究では、照応形束縛とA移動の局所性に基づく新たな仮説を公表している。(2017年度) 2018年度は、日本語特有の適正束縛現象、日本語使役文における照応形束縛と移動の局所性のズレなど、日本語の特異的性質、あるいは日本語分析の問題とされてきた現象を検討して、これらが本研究の仮説により説明されることを示した。 (3) カートグラフィー構造については、様々な言語の分析で提示されてきた階層構造に、統語的・意味的説明を与えることを主な目的として研究を続けてきた。2018年度は、その成果の一部として、イタリア語におけるwh句と焦点句の共起制限、日本語の多重焦点分裂文に関する諸制限、日本語wh疑問文における計量詞介在現象に統一的説明を与える論文を公表した。イタリア語研究者、Giuliano Bocci氏、Luigi Rizzi氏との共著論文である。
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今後の研究の推進方策 |
(1) ラベル付けの理論は、これまで曖昧な意味的特徴とされてきた日本語の現象に正確な分析を与える可能性を孕む。例えば、名詞修飾節が被修飾名詞と多様な修飾関係を持ちうることが、日本語の特徴として指摘されてきたが、分析は提示されていない。この現象は、日本語が、{TP, NP} にラベルを与えるメカニズムを有することを示唆する。また、本研究で提示した弱主要部とラベル付けに関する仮説は、二次術語など、これまでラベル付けとの関連で分析されてこなかった現象に説明を与えることを可能にすると考えられる。本研究の帰結をさらに追求するために、このテーマにも取り組む予定である。 (2) フェイズと転送領域に関する研究は、A'移動の局所性を捉えるに至っていない。この研究領域では、Zeljko Boskovic (2016) という極めて重要な論文があるが、そこで提示されているフェイズ/転送領域の定義は、本研究のものとは異なる。しかし、Boskovic氏との長期に亘る意見交換、共同研究を通して、両者を統合する目処は立っており、この研究を完成させる。 (3) 本研究の成果の公表は、未だ充分ではない。カートグラフィー構造については、当該研究の中心地とも言えるシエナ大学、ジュネーヴ大学の研究者とともにワークショップを開催し、成果を発表する予定である。フェイズと転送領域については、韓国生成文法学会機関誌 Studies in Generative Grammarに論文を寄稿することになっており、これを早急に仕上げる。また、ラベル付けに関しては、今後の研究成果も含め、ワークショップ等で発表を行い、論文を日本語、英語双方で執筆する。
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次年度使用額が生じた理由 |
シエナ大学、ジュネーヴ大学から研究協力者を招聘して、カートグラフィーに関する国際ワークショップを開催する予定であったが、招聘予定者の都合により、これを2019年4月に延期した。また、コネティカット大学に滞在して、Zeljko Boskovic教授と転送領域に関する共同研究を行うが、最大限の成果を上げるために、これも2019年9月に延期することとなった。
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備考 |
研究者紹介に加え、論文のダウンロードも可能。
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