研究実績の概要 |
Chomsky(2013)の極小主義統語論は、二つの要素 a,b から構成素 g={a,b} を形成する併合とgの性質を決定するラベル付けから成る。名詞句の分布や移動の性質は、ラベル付けの帰結として導かれる。この理論では、時制節のラベル付けにおいて一致が重要な役割を果たす。ここから、日本語のような一致を欠く言語ではどのようにラベル付けがなされるのかという問いが生じる。本研究は、日本語の類型的特徴に説明を与えつつ、この問いに答えることをめざす。 (1) 2016年に論文 (A) Case for labeling を公表して、文法格と述部屈折が反ラベル付け機能を持つことを提案し、経験的帰結として、日本語が、多重主語、自由語順、項省略、語彙的複合動詞を許容することに説明を与えた。 (2) 2017年は、この提案の理論的帰結に焦点を当てた。残された説明すべき原理として、theta規準がある。一方で、Kuroda(1988)が日本語ではこの原理と矛盾する例があることを指摘していた。2017年の論文 Labeling and argument doubling in Japanese では、theta規準を遵守する例とともにこれらの反例がラベル付け理論から導かれることを示した。 (3) (1)は、日本語の文法格と述部屈折が、なぜ反ラベル付け機能を有するのかという課題を提示する。2018年は、この課題に答える論文 Kase as a weak head を公刊した。ラベル付けに寄与しない弱主要部があるとのChomsky(2015)の提案に修正を加え、文法格と屈折を弱主要部であるとすることにより、その反ラベル付け機能が説明されることを論じた。 (4) 2019年度は、日本語の連体修飾節と遊離数量詞の広範な分布が、(1)の仮説から導かれることを示し、「弱主要部と言語類型論」と題する論文にまとめた。
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