研究課題/領域番号 |
16K02648
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
吉田 優子 同志社大学, グローバル・コミュニケーション学部, 教授 (70288603)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 大阪方言 / ピッチ・アクセント / 世代差 / 和語 / 中高型 |
研究実績の概要 |
1990年代生まれの大阪市内出身者、5人の各種和語のデータをとることができた。様々な研究に基づき立ててきた仮説の通り、3モーラ語では、たまご(LHL)に代表されるいわゆる中高型のピッチ型に、全員において増加傾向が見られたが、中高型の全3モーラ語に占める割合がほぼ同じであるのに、中高型を持つ語彙には話者間でばらつきが観察された。部分的に、以下の2点の報告をまとめた。これをもとにさらにデータを取り、研究をつづけてゆきたい。 1.「大阪方言らしさとは?3モーラ和語における中高型」『現代音韻論の動向―日本音韻論学会20周年記念論文集』日本音韻論学会[編]開拓社.この論文では基本的な和語の語彙について、どのようなアクセントのパターンが減少、または増加しているか検討し、予測通り、中高型の3モーラ和語が増加していることを杉藤(1995)に記録のある1930年代、1960年代生まれの話者のデータと、今回収集した1990年代の話者達の年代差によるパターンの比較を示して論じた。語中の1モーラだけ高ピッチがあるものが増加、2モーラ以上高いピッチのつくものは減少の一途であった。 2.「ピッチ・アクセントに於ける無アクセントとは」音韻研究の新展開 ―窪薗晴夫教授還暦記念論文集―. 田中真一 ピンテール=ガーボル 小川晋史 儀利古幹雄 竹安大(編)開拓社.こちらではいわゆるアクセントのない語彙に高いピッチがどのように知覚されることとなるのか、関西方言の名詞句の独特な統語的性質に焦点を当てながら論考した。このためには被験者から得たピッチ・アクセントのデータが活用されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立てていた予測がうまく機能していたことから、被験者からのデータ収集の結果もスムーズにまとめることができている。最終的には和語全体の分析を展開したいが、もちろん、語のサイズによってピッチ型と観察経過が異なるので、1モーラ和語、2モーラ和語、3モーラ和語、それよりも長い和語の分析を個々に積み重ねてゆく予定である。現在、3モーラ和語の研究が進んでいる。最も論争の的となる3モーラ和語の分析が進んでいることは特筆すべきであろう。ここからすべての和語の分析に向けて、大変よい土台ができた。 被験者の選択も概ね上手く行っているが、幼少期から大阪市内在住のものにおいても、親世代が他地域の出身者である場合には、やはり、当然のこととはいえ、二世代遡って大阪市在住の話者とは異なるピッチ型を観察する傾向がみられ、このような例からも大阪市在住話者のピッチ型の特徴を特定してゆく手がかりとなったので、有意義なことであったことを申し添えておく。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでは予測通りに被験者からのデータ収集の結果をまとめることができているので、今後は今までに収集したデータのさらなる分析を進めると同時に、さらに話者を募ってデータを収集し、分析を進めたい。 大阪方言において英語などと同様、trochaic(強弱) foot が認められるのか、2モーラ語のピッチ・アクセントの位置とその分布などから世代差も考慮に入れつつ検討してゆきたい。頭高型が圧倒的に多ければ英語と同様、trochaic footを想定することが可能であり、また若い話者の間で他のアクセント・パターンから頭高型への移行が確認された場合にはこの分析が強く裏付けられる。 大阪市内出身者には近い身内にほかの地方の出身者がいることも多く、なかなか被験者を絞ってゆくことが難しいので、この被験者選びが大きな課題である。すでに被験者をつとめていただいた大阪市在住者の情報をもとに、さらに広く募って、話者の絞り込みをしてゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
共同研究者を招いての研究会の開催予定を翌年に見送ったため。
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次年度使用額の使用計画 |
共同研究者(複数)のうちの一人の渡航費、および研究会経費に使用する計画である。
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