今年度は授与補助動詞の文法化の類型論的分析のため、授与補助動詞を持つ諸言語を広範囲に調べた。その結果、SOV型言語の授与補助動詞の文法化の通言語的な階層性として、[与益用法<与害用法<非能動的用法]があることが分かった。また授与補助動詞の非能動的用法は、ゾゾ語だけではなくネワール語、ヤッカ語のようなチベット=ビルマ系言語の一部、更にはインド・アーリア系言語のネパール語やドラヴィダ系言語のクルフ語などにも認められ、系統を超えた地域的特徴であることが分かった。 またSOV型授与補助動詞の文法化の発展条件を分析した結果、事物の授与を伴う与益用法しか持たない言語は与害用法を持たないこと、非意図的・自然的な与害が無条件に表せない言語は、授与補助動詞の非能動的用法を持たないことを指摘できた。 研究期間全体を通じて実施した研究成果としては、まず、ゾゾ語の格体系、名詞句構造、授与補助動詞構文を詳細に記述したことで、チベット=ビルマ系言語研究に有益なデータを提供したことと、ゾゾ語の連体修飾構造と体言化の記述により同現象の言語類型論研究に貢献したことを挙げることができる。そして最も大きな成果としては、授与補助動詞の文法化の程度が異なる様々な言語をゾゾ語と対照することにより、従来の与益授与補助動詞構文の類型論的研究の記述を修正し、与益・与害の用法を超えた授与補助動詞構文の類型論研究を発展させたことを挙げることができる。 本研究の成果は国際学会で広く国内外に発信したほか、ゾゾの口承文学や伝統芸能を含めた文化講演会の中で一般市民に対しても報告した。そして、絶滅の危機にある少数民族言語の保護の重要性についても伝えた。 今後はSOV型言語の授与補助動詞構文のアスペクト・使役表現の研究、SOV型以外の言語の同構文の研究、そして諸言語の授与本動詞の研究を行い、授与動詞の体系的な類型論研究に繋げたい。
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