研究課題/領域番号 |
16K02652
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研究機関 | 九州国際大学 |
研究代表者 |
日高 俊夫 九州国際大学, 現代ビジネス学部, 准教授 (50737525)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 統語的複合動詞 / かける / 切る / 意味構造 / 統語構造 / アスペクト / モダリティ / 多義性 |
研究実績の概要 |
主に、イベント終了に関わる統語的複合動詞「V-切る」と、イベント開始に関わる統語的複合動詞「V-かける」について、共時的観点から分析を進めた(後者に関しては、連帯研究者である板東美智子氏(滋賀大学教授)との共同研究に負うところが大きい)。先行研究では、両者共に「アスペクト複合動詞」として扱われてきたのに対し、本研究では、アスペクト的なものとモダリティ的なものの2つが存在することを主張し、その意味構造と統語構造を明らかにすることに取り組んだ。 これまでの研究で明らかになったことは、主に次の6つである。(1) これまで「アスペクト」として一義的に扱われてきた「V-切る」「V-かける」にも、アスペクトを表すものとモダリティ的なものの2種類がある。(2) その2種類を区別する意味的な手がかりは、イベントの開始や終了状態に対する「観察可能性」である。(3) 補部となる動詞句(VP)で表されるイベントの開始や終了状態が「観察可能」である場合、「アスペクト」としての特性を持つ。(4) 補部となる動詞句(VP)で表されるイベントが「観察不可能」である場合、主観的な判断を表す「モダリティ」としての特性を持つ。(5)「切る」「かける」にそれぞれ2つの語彙登録を仮定し、形式的・構成的な意味合成を行うことにより、先行研究における直観的な多くの分類を単純化・モデル化できる。(6) 2つの「V-切る」(および「Vかける」)は異なる統語構造を取る。 以上を、「V-切る」「V-かける」別々の分析として関西言語学会第41回大会で発表し、Proceedingsにも掲載予定である。今後の課題としては、その別々の分析を矛盾なく統合することと、「V-かける」の分析で提案したMAP (Minimal Approved Point)という概念の一般性を模索すること等が考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の予定は「V(て)行く」「V(て)来る」「V かける」をさらに分析、形式化することと「V きる」「V てしまう」の先行研究を調査することであった。このうち、「V(て)行く」「V(て)来る」については、外に出る形ではあまり進展が見られなかったものの、現在論文としてまとめているところである。「Vかける」については、連帯研究者である板東美智子氏(滋賀大学教授)のお陰もあり、比較的順調に進んでおり、意味構造の形式化と統語構造に関する考察をほぼ終えたところである。「Vかける」がイベント開始時に関わり、一方、「V-切る」はイベント終了時に関わるので、両者を並行的に分析することにより、より深い論考となると考え、予定を前倒しして「V-切る」の分析にも取り組んだ。その結果を関西言語学会第41回大会で発表し、さらにProceedingsにも論文を掲載予定である。両者の統一的分析は今後の課題ではあるが、ある程度その見通しがついたということで、少なくとも共時的な面では複数の複合動詞を統一的に説明するという目標に到達する足がかりができつつある段階であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度においては、まず、「V-切る」「V-かける」の共時的な統一的分析に向けて進む予定である。具体的には、まず、「観察可能性」という概念をさらに厳密に定義し、この2つの統語的複合動詞が「観察可能性」に基づいて統一的に説明できるか否かを探る。同時に、我々の提唱している「MAP(Minimal Approved Point)」という概念の一般的有効性を立証し、論を補強する。さらに、通時的考察を踏まえながら、本動詞の「かける」「切る」からの文法化プロセス(共時的には多義性のネットワーク)についてのモデルを構築していく予定である。 次に、「V-行く」「V-来る」でこれまでまとめた分析を統合し、まず、共時的な側面から、意味の多義性および統語構造の考察を進め、それを論文にまとめる。その後、さらに歴史的な考察を踏まえた上で分析を進め、最終的な論文をまとめ、「V-行く」「V-来る」については、ひとまず論考を終えたい。 また、当初の予定通り、「V-て-しまう」の分析を進め、それを形式化すると同時に、「V-て-ある」「V-て-いる」の先行研究を調査する。以上が平成29年度の予定である。 平成30年度は、予定通り、「V-て-ある」「V-て-いる」の分析を進め、形式化すると同時に、それまでの分析との整合性を模索する。 平成31年度には、それまでの研究の包括的分析をまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、予定を若干変更し、通時的研究よりも、主として「かける」「切る」の共時的研究に取り組んだので、OCRスキャナーの購入費および通時的文献資料購入を次年度に回した。また、3月末に出張に行った旅費等も次年度請求となっている。そのため、次年度使用額(直接経費)は当初の予定(500,000)よりも多くなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、OCRスキャナーの他は、当初の予定通り、主に旅費に約30万円、と物品費として約20万円を使用予定である。具体的には、旅費は主に国内の学会、研究会および打ち合わせに使用する予定であるが、可能であれば海外学会で発表したいと考えているので、海外発表の機会を得た場合、旅費が若干増える可能性がある。
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